窒素フットプリントに基づく日本の消費者の食生活改善による窒素負荷削減ポテンシャル

要約

窒素フットプリントは、人間活動により環境中に排出される反応性窒素の総量であり、窒素負荷に対する消費者影響の指標等として利用できる。日本の消費者の食生活改善(食品ロス・食べ過ぎの削減、1970年の和食への回帰)により、食の窒素フットプリントを46%削減できる。

  • キーワード:反応性窒素、タンパク質、食品ロス、食べ過ぎ、仮想窒素係数(VNF)
  • 担当:農業環境変動研究センター・物質循環研究領域・水質影響評価ユニット
  • 代表連絡先: niaes_manual@ml.affrc.go.jp
  • 分類:研究成果情報

背景・ねらい

窒素フットプリントは、人間による食料やエネルギーの消費に伴い環境中へ排出される反応性窒素(Nr:N2以外の窒素化合物)の総量を表す。環境中の過剰なNrは、閉鎖性水域の富栄養化や地球温暖化等を助長し、地球環境に負の影響を及ぼす。窒素フットプリントの大部分は食料生産~消費過程(フードチェーン)からのNr排出(食の窒素フットプリント)であり(図1)、その発生要因の解明と削減策の提示が必要である。本研究では、過去半世紀の日本の消費者による食品ロス・食べ過ぎの実態や食の嗜好の変化を明らかにし、窒素フットプリントの考え方に基づき、消費者の食生活改善による窒素負荷削減ポテンシャルを見積もる。

成果の内容・特徴

  • 食の窒素フットプリントは、主要食品群別のNr摂取量と仮想窒素係数(VNF:摂取Nrの何倍のNrが食べる前に環境中に排出されたかを示し、統計データ等に基づき設定)から求められる(図1)。これはN-Calculator法と呼ばれ、VNFの値は肉類で高く、魚介類、豆類で低い。
  • 日本の消費者によるNrの食べ過ぎは、1960年代を中心とする高度経済成長期に急増した(図2)。食品ロス(可食部の廃棄)は、食べ過ぎが最大値に到達後、1970年代後半から顕著となり、2000~2001年には急に倍増したが、近年は漸減している。現在、供給純食料Nrの11%は食品ロス、22%は食べ過ぎであり、供給純食料Nrは最大33%(191 Gg-N 年-1)削減可能である。これは、その3.8倍(719 Gg-N 年-1)に相当するNr排出量削減につながる(図2)。
  • 日本の消費者一人当たりの供給純食料Nrの長期変遷を主要食品群別に見ると、総量は4.1~5.2 kg N 人-1-1で大きな変化はないが、食の嗜好の変化に伴い、植物性Nrが大きく減少し、動物性Nr(特に畜産食品Nr)が増加する質的変化が生じている(図3左)。供給純食料Nrが等しい1970年と2015年の窒素フットプリントを比較すると、1970年は2015年よりも19%低い値となる(図3右)。即ち、現代食から1970年の「日本食」に回帰することで、食の窒素フットプリントを19%削減可能である。
  • 日本の消費者の食品ロス・食べ過ぎの削減と、1970年の「日本食」への回帰を同時に適用すれば、最大46%の窒素フットプリントの削減が可能である。環境中へのNr排出削減を進める上で、消費者の役割は極めて大きく、生産から消費に至るフードチェーン全体を通したNr排出の削減を進める必要がある。

成果の活用面・留意点

  • 食の窒素フットプリントは、食べることが環境に及ぼす影響(Nr排出)を消費者等に知ってもらうための定量的な簡易指標・ツールとして、「食育」等で利用出来る。
  • 窒素フットプリントは新しい指標であり、基本的概念では共通理解が得られているが、具体的な計算方法の詳細や実態を反映したVNFの値等については、現在も様々な研究が進められている。

具体的データ

図1 食料生産~消費過程(フードチェーン)における食の窒素フットプリントの概要,図2 日本の消費者の食に関わる反応性窒素(Nr)の動態(食品ロスと食べ過ぎの長期変遷),図3 日本の消費者一人当たりに換算した主要食品群別の供給純食料(可食部のみ)に含まれる反応性窒素(Nr)量の長期変遷(左)と食の窒素フットプリント(右)

その他

  • 予算区分:交付金、競争的資金(イノベ創出強化)
  • 研究期間:2016~2018年度
  • 研究担当者:江口定夫、平野七恵
  • 発表論文等:
    • 江口、平野(2019)土肥誌、90(1):32-46
    • 江口ら(2018)土肥誌、89(3):249-259