国内外における食の窒素投入・排出の実態と国連SDGsに沿った窒素負荷削減予測

要約

日本の食を支える窒素投入の70%、排出の40%は海外で生じ、フードチェーン全体の窒素利用効率は長期低下が続く。国連SDGsのNo.12「責任ある消費と生産」に沿った食品ロス・食べ過ぎの削減により、2050年の窒素排出は現状維持より19%低く抑えられ、食料自給率60%も可能である。

  • キーワード:窒素フットプリント、窒素利用効率(NUE)、フードチェーン、食料自給率、国連の持続可能な開発目標(SDGs)
  • 担当:農業環境変動研究センター・物質循環研究領域・水質影響評価ユニット
  • 代表連絡先: niaes_manual@ml.affrc.go.jp
  • 分類:研究成果情報

背景・ねらい

日本の食料自給率は現在38%と低く、日本の食は国内よりも海外(食飼料輸入元の国々)への依存度が高い。このため、食料生産のための反応性窒素(Nr、N2以外の窒素化合物)の投入は、国内よりも海外が主体となるが、その実態の長期変遷は明らかにされていない。また、食料生産~消費過程(フードチェーン)からの環境中へのNr排出(食の窒素フットプリント)のうち、海外及び国内で発生する割合については殆ど知見が無い。2015年に採択された国連の持続可能な開発目標(SDGs)のNo.12「責任ある消費と生産」のターゲット12.3(2030年までに食料廃棄を半減)に貢献するためには、日本の食を支えるNrの投入側と排出側の実態を国内外に分けて定量的に把握すると共に、日本のフードチェーン全体としての窒素利用効率(NUE)の向上に取り組み、世界最大の食飼料輸入国としての責任を果たす必要がある。本研究では、過去半世紀の日本の食の窒素フットプリントの計算に基づき、国内外における投入Nrと排出Nrの長期変遷を明らかにすると共に、国連SDGs12.3に沿ったシナリオによる排出Nr低減と食料自給率向上の効果を見積もる。

成果の内容・特徴

  • 食の窒素フットプリントは、仮想窒素係数(VNF)を用いるボトムアップ型のN-Calculator法(VNF一定)や、統計データに基づき国内外の投入Nrを集計するトップダウン型のN-Input法により計算できるが(表1)、過去の長期変遷を簡便に解析できる手法が無かった。本研究で新たに開発したN-Calculator法(VNF変動)と、国内外の排出Nrを集計するN-Output法は、国内外の農地のNUEや食料自給率の経年変化を考慮できる。
  • 日本の食の窒素フットプリントは、1960年はほぼ全てが国内の排出Nrだったが、1990年代半ば以降、排出Nrの約60%が国内(有機性廃棄物が主体)、約40%が海外で生じている(図1a)。一方、投入Nrは、1960年は大部分が国内だったが、近年は約70%が海外である(図1b)。国内の投入Nrは大きく減少したが、その4~5倍に相当する投入Nrが海外で増加しており(図1b)、日本のフードチェーン全体のNUEは、長期的に低下を続けている。
  • 現在(2015年)の食品ロス・食べ過ぎ発生率を維持した場合(BAUシナリオ)(図2a)と国連SDGs12.3(2030年までに食料廃棄を半減)の半減期に従って削減した場合(SDG12シナリオ)(図2b)を想定し、2095年までの食の窒素フットプリントと食料自給率を予測したところ、2050年の食の窒素フットプリントは、SDG12シナリオの方が19%低く抑えられ、食料自給率は60%に達する。また、SDG12シナリオによる食料自給率は、2025年には45%に達しており(図2b)、食料・農業・農村基本計画が掲げる目標(2025年までに45%)を達成可能である。

成果の活用面・留意点

  • 食の窒素フットプリントは、生産や消費の現場だけでなく、それを包含する国内外のフードチェーンシステム全体でのNUE評価や、貿易を通じた国内外でのNr排出・Nr投入の実態の解析等に利用できる。

具体的データ

表1 食の窒素フットプリントの異なる計算手法,図1 日本の食に関わる反応性窒素(Nr)の国内及び海外(食飼料輸入元の国々)における排出量(a)と投入量(b)の長期変遷,図2 日本の消費者の食の窒素フットプリントと食料自給率の将来予測:(a)現状維持(BAU)と(b)SDG12シナリオの比較

その他

  • 予算区分:交付金、競争的資金(イノベ創出強化)
  • 研究期間:2016~2018年度
  • 研究担当者:江口定夫、平野七恵
  • 発表論文等:
    • 江口、平野(2019)土肥誌、90(1):32-46
    • 江口ら(2018)土肥誌、89(3):249-259