除草剤に対する維管束植物の感受性差を把握するための5種同時発芽生長試験法

要約

除草剤の生態影響をより適切に評価可能にすることを目的とした、維管束植物の種子を用いた効率的な試験法である。試験生物種は、分類学的多様性や開発した試験法への適合性を考慮して、我が国に生息する主な水生植物と近縁である5種類の植物種を選定している。

  • キーワード:農薬、除草剤、種子、生態リスク
  • 担当:農業環境変動研究センター・生物多様性研究領域・化学物質影響評価ユニット
  • 代表連絡先: niaes_manual@ml.affrc.go.jp
  • 分類:研究成果情報

背景・ねらい

河川や湖沼などの水圏生態系には多種多様な生物が生息しているが、これらの水系に流出した農薬の感受性は対象となる生物種によって極端に異なることが知られており、このような生物種間の感受性差を統計学的分布として表現したものが「種の感受性分布」である(図1左)。農研機構では種の感受性分布を用いた生態リスク評価手法の開発を進めており、2016年に技術マニュアルを作成・公開している(図1右)。
2018年に改正された農薬取締法の下では生活環境動植物を対象としたリスク評価が行われ、除草剤では藻類5種に加えて維管束植物の代表としてコウキクサ属植物を試験種として用いることとなっている。しかしながらコウキクサが維管束植物の感受性を代表しているかどうかの検証例は非常に乏しく、水生植物などを対象に幅広い分類群の感受性データを整理する必要がある。そこで本研究では、陸域生態影響試験法であるOECDテストガイドライン208―発芽生長試験法(化学物質を添加した土壌を用いて種子から2週間程度ポット栽培を行う試験)を水系の簡易な試験に改変し、さらに試験に適合する5種類の試験生物種を選定する。

成果の内容・特徴

  • 新たな試験法は、6穴マイクロプレートのウェル中の試験液に播種した種子を発芽・生長させる効率的な試験法である(図2)。この特徴は、オーバーヘッドスキャナーでマイクロプレートを撮影し、画像解析によって自動的に植物バイオマスを緑色部分の面積として測定することであり、非常に効率的であるため多種類の試験を同時に行うことが可能となっている。
  • 試験期間は7日間、試験水量は2.5ml/well、温度は22°C、光量子束密度は40μM/m2/s(明暗12:12h)の条件で試験を行う。画像解析はImage-Jを使用し、緑色部分の面積の減少率をベースに半数影響濃度を求める。
  • 試験への適合性等を考慮し、以下の条件で試験生物種を選定している:(1)日本産の主な水生植物と近縁種(同じ目の種)であること、(2)多様な分類群をカバーしていること、(3)種子を容易に購入可能であること、(4)6穴マイクロプレート内の試験液中で発芽および生長が可能であること、(5)上部から撮影した画像からバイオマスが定量可能な形状であること。選定した5種は表1の通りである。
  • 藻類やウキクサへの感受性が低いことが知られている除草剤の2,4-Dを用いた試験を行ったところ、5種全てでコウキクサよりも感受性が強いという結果が得られている。これらの感受性データを用いることで、除草剤の生態影響をより適切に評価できることが示されている(図3)。

成果の活用面・留意点

  • 本試験法によりわが国の維管束植物に対する除草剤の感受性データを効率的に整備することが可能となり、行政や研究機関、農薬メーカー等による農薬の生態リスク評価の高度化に貢献する。

具体的データ

図1 種の感受性分布の概念図(左)と技術マニュアル(右),図2 開発した効率的な試験方法の概要,表1 選定した5種類の試験生物種,図3 除草剤2,4-Dを例とした、分類群ごとの感受性(左)と種の感受性分布の解析結果(右)

その他