「土壌のCO2吸収「見える化」 サイト」の機能拡張と土壌情報更新

要約

Webツール「土壌のCO2吸収「見える化」 サイト」は有機物の投入や水管理による土壌への炭素貯留や温室効果ガス排出に加え、地下水への窒素溶脱を計算できる。最新の土壌データとリンクしており、バイオ炭の最新の算定法も採り入れている。

  • キーワード:水田メタン、窒素溶脱、土壌図、環境保全型農業、Jクレジット、バイオ炭
  • 担当:農業環境変動研究センター・気候変動対応研究領域・土壌炭素窒素モデリングユニット
  • 代表連絡先:
  • 分類:普及成果情報

背景・ねらい

2050年のゼロエミッション社会の実現を目指し、農業においても、温室効果ガスの排出を減らし土壌炭素貯留を促進する環境保全型農業の重要性が一層高まっている。有機物管理や水管理などの農法と、土壌炭素貯留や温室効果ガスの排出の関係は複雑であり、同じ管理でも効果は場所により異なるうえ、圃場で実測するのは多くの時間と労力を要する。そこで、農法と土壌炭素貯留や温室効果ガス排出との関係をモデル化する研究成果を利用して、これまでに、有機物の投入による土壌からのCO2削減効果を「見える化」するwebツールを開発し、公開した(2016年普及成果情報https://www.naro.go.jp/project/results/4th_laboratory/niaes/2016/16_049.html)。その後、機能の拡張および計算方法やリンクする土壌情報を最新のものに更新しており、今後も、行政や生産者の意思決定を支援することで、低炭素社会の実現に貢献する。

成果の内容・特徴

  • 「土壌のCO2吸収「見える化」 サイト」は、地図上で場所を選択し(図1)、作物と有機物管理法をメニューから選択するだけの簡単操作で、土壌炭素量の変化を20年間計算し、メタンと一酸化二窒素、化石燃料由来のCO2排出もあわせた温室効果ガス排出の総合評価結果を表示できる。場所を選択する際の土壌図と土壌理化学性情報は、2015~2018年の最新土壌調査データに基づき更新されている。
  • 土壌炭素貯留のうち、バイオ炭の施用に伴う炭素貯留量については、2019年改良IPCCガイドラインおよび2020年9月30日にJクレジット方法論に新規登録したAG-004「バイオ炭の農地施用」の最新の算定方法に更新されている(図2)。
  • 水田からのメタン排出については、2015年から日本国温室効果ガスインベントリ報告書で採用されている最新の計算方法が反映されるとともに、より詳しい条件設定で計算したいユーザー向けに、同最新計算法の根拠となったモデル(DNDC-Rice)で直接計算するページも用意されている(図3)。
  • 温室効果ガスの排出だけでなく、土壌中の窒素動態予測モデル(LEACHM)を活用した畑土壌からの窒素溶脱や土壌の全窒素濃度の計算機能が用意されている(図4)。

普及のための参考情報

  • 普及対象:全国の農業者、普及組織、行政機関、民間企業、教育機関
  • 普及予定地域・普及予定面積・普及台数等:日本全国の農地に適用可能。
  • その他:
    「土壌のCO2吸収「見える化」 サイト」のURL:https://soilco2.rad.naro.go.jp/(2020年11月30日に新URLに移設。旧URL (http://soilco2.dc.affrc.go.jp/)からは自動的に移行する)

具体的データ

図1 場所の選択ページ,図2 バイオ炭の種類の選択ページ,図3 DNDC-Riceモデルによる水田からのメタン排出の計算結果の表示例。,図4 LEACHMモデルによる畑土壌からの窒素溶脱の計算結果の表示例。

その他

  • 予算区分:
    交付金、その他外部資金(地球研、2016~2017年、生研イノベ、2016~2018年、生研イノベ、2020~2022年、農水委託・営農促進、2018~2020年、農水委託・エコ酪事業、2019年)
  • 研究期間:2016~2020年度
  • 研究担当者:麓多門、江口定夫、朝田景、岸本文紅、須藤重人、高田裕介、白戸康人
  • 発表論文等:
    • 白戸(2015)農地の温室効果ガス吸排出を総合評価するウェブサイト、ニューカントリー、738、42-43
    • Ogle et al. (2019) Volume 4, Chapter 5. Cropland. In Buendia C. et al. (eds) 2019 Refinement to the 2006 IPCC Guidelines for National Greenhouse Gas Inventories, Published: IPCC, Switzerland