新たな遺伝子系統の豚繁殖・呼吸障害症候群(PRRS)ウイルスの性状解析
要約
我が国で新たに分離された豚繁殖・呼吸障害症候群(PRRS)ウイルス株の遺伝子配列全長は北米で流行する病原性の強い株と近縁で、動物試験により解析したところ、この株の子豚に対する病原性は我が国で流行した代表的なウイルス株と同等以上である。
- キーワード:豚繁殖・呼吸障害症候群、PRRS、ウイルス、豚、遺伝子解析
- 担当:動物衛生研究部門・ウイルス・疫学研究領域・疾病防除基盤ユニット
- 代表連絡先:電話 029-838-7937
- 分類:研究成果情報
背景・ねらい
豚繁殖・呼吸障害症候群ウイルス(PRRSV)は豚に感染するウイルスで、母豚に流死産、子豚に肺炎などの呼吸器障害を引き起こす。PRRSVは遺伝子変異を起こしやすい特徴を持っており、大きく2つの遺伝子型に大別され、それぞれの遺伝子型も更に細かい遺伝子系統に分類されている。遺伝子系統が異なるとワクチンの効果が十分に得られないこともあり、流行株の遺伝子系統を把握しておくことはPRRSという疾病の対策上重要である。これまでわが国では見つかっていなかったPRRSV(Jpn5-37株)が2009年に新たに分離され、北米の流行株に近いことが示唆されたが、詳細な解析はなされていない。そこで、今後のPRRS対策にJpn5-37株が与える影響を考察するため、ウイルス遺伝子の遺伝的特徴と病原性を明らかにする。
成果の内容・特徴
- 迅速にPRRSVの遺伝子配列の全長を決定する手法(CORT-MDA法)を用いて分離ウイルスの遺伝子を解析したところ、Jpn5-37株は北米で流行する病原性の強い株と近縁である(図1)。
- Jpn5-37株は、我が国で流行した代表的なウイルス株(EDRD1株)と比較して体内で増えやすく、高熱を引き起こすが、感染豚の死亡は確認されない(図2)。
- Jpn5-37株は、子豚の肺に典型的な間質性肺炎を誘発する(図3)。
成果の活用面・留意点
- 我々が開発したCORT-MDA法は、多様なPRRSVの遺伝子配列の全長決定に対して適用が期待される。
- Jpn5-37株に類似したウイルスの我が国における浸潤状況は不明であるが、我が国で流行した代表的なウイルス株以上の病原性であることが危惧されるため、病性鑑定上注視していく必要がある。
具体的データ

その他
- 予算区分:委託プロ(次世代ゲノム)
- 研究期間:2012~2016年度
- 研究担当者:井関博、両角岳也(JATAFF)、高木道浩、川嶌健司、芝原友幸、上西博英、恒光裕
- 発表論文等:
1) Morozumi T. et al. (2014) J. Vet. Med. Sci. 76(9):1249-1255
2) Iseki H. et al. (2016) Microbiol. Immunol. 60(12):824-834