豚レンサ球菌の莢膜欠失弱毒株は動物体内で莢膜を発現し、強毒化しうる

要約

豚レンサ球菌は、莢膜を欠失すると病原性が低下する。しかし、莢膜欠失株には、動物体内での遺伝子変異により、莢膜を発現し、強毒化する株がある。

  • キーワード:豚レンサ球菌、人獣共通感染症、莢膜、点突然変異、in vivo
  • 担当:動物衛生研究部門・細菌・寄生虫研究領域・病原機能解析ユニット
  • 代表連絡先:電話 029-838-7937
  • 分類:研究成果情報

背景・ねらい

豚レンサ球菌は豚や人に髄膜炎や敗血症、心内膜炎を起こす人獣共通感染症起因菌として知られている。通常は本菌の表層は多糖類で構成される莢膜に覆われているが、心内膜炎を呈した豚からは、莢膜合成遺伝子の変異により莢膜を失った株が多数分離される。莢膜の欠失は宿主への付着能を高めるため、心内膜炎発症過程においては菌にとって有利に働く。一方、莢膜は免疫細胞による貪食に抵抗する重要な病原因子であるため、欠失した菌の病原性は大きく低下し、人に髄膜炎や敗血症を引き起こしにくくなると考えられる。しかし、一度莢膜を欠失した株が莢膜を再生し、強毒化する可能性について検証されておらず、公衆衛生のリスクは明らかではない。そこで本研究では、試験管内と動物体内で継代を繰り返し、莢膜の再発現と強毒化の可能性を検証する。

成果の内容・特徴

  • 莢膜合成遺伝子の変異により莢膜を欠失した豚レンサ球菌株を液体培地で繰り返し培養しても、莢膜の発現は認められない(図1)。
  • 莢膜欠失株をマウスで継代すると、莢膜合成遺伝子の機能が回復し、莢膜を発現する株が出現することがある(図1)。
  • マウス体内で生じた莢膜発現株は、莢膜を失っている親株に比べて強毒化する(図2)。

成果の活用面・留意点

  • 莢膜欠失株の中には、宿主内で再び莢膜を発現し、病原性を発揮しうる株が存在する。豚レンサ球菌症において、莢膜欠失株のリスクにも留意する必要がある。
  • 莢膜の欠失は莢膜合成遺伝子の欠失、置換、挿入など多様な変異により起こるため、動物体内であっても全ての莢膜欠失株が本研究成果のように莢膜を再発現し、強毒化するわけではない。

具体的データ

図1 莢膜欠失株の動物体内の継代による莢膜発現復活の検証?図2 莢膜復活株の病原性

その他

  • 予算区分:交付金、競争的資金(科研費)
  • 研究期間:2014~2016年度
  • 研究担当者:大倉正稔、Jean-Philippe Auger(モントリオール大)、Nattakan Meekhanon(カセサート大)、大崎慎人、Marcelo Gottschalk(モントリオール大)、関崎勉(東京大)、高松大輔
  • 発表論文等:Auger JP. et al. (2016) Emerg. Infect. Dis. 22(10):1793-1796