動く遺伝子ISApl1が関与する血清型別不能な豚胸膜肺炎菌変異体の分離

要約

血清型別不能の豚胸膜肺炎菌は、元々血清型15であったが動く遺伝子ISApl1の関与によって莢膜合成遺伝子が変異した株である。

  • キーワード:豚胸膜肺炎菌、型別不能、血清型15、変異、ISApl1
  • 担当:動物衛生研究部門・細菌・寄生虫研究領域・病原機能解析ユニット
  • 代表連絡先:電話 029-838-7937
  • 分類:研究成果情報

背景・ねらい

豚胸膜肺炎菌Actinobacillus pleuropneumoniae(App)を起因菌とする豚の胸膜肺炎の養豚産業に与える経済的被害は甚大であり、Appは豚の重要な病原細菌と考えられている。Appにはこれまでに16の血清型が確認されているが、豚胸膜肺炎予防に用いられるワクチンの効果は血清型特異的であり、さらに血清型間で病原性の強さに差が認められるため、Appの血清型の同定は重要である。
一方、既知の血清型のいずれにも型別されない型別不能な株(UT)も分離されている。本研究の目的は、UT株が型別不能であるその遺伝学的背景を明らかにすることである。

成果の内容・特徴

  • 血清型15のFH24-1は、血清型15の莢膜合成に必要な遺伝子cps15A-cps15B-cps15Cを保有する(図1)。そして、cps15Aの上流には動く遺伝子ISApl1が存在する。
  • 大腸菌ではISの隣接DNAの欠失にISが関与することが報告されているが、UT株のFH24-2は、ISApl1に隣接するcps15A-cps15B全てとcps15Cの一部を欠失している(図1)。
  • UT株のFH24-5も、FH24-1同様にcps15A-cps15B-cps15Cを保有するが、cps15Bにはもう一つのISApl1が挿入されており(図1)、cps15Bが機能しないと考えられる。
  • 莢膜の輸送及び合成に関与する遺伝子を標的にした2種類の血清型15推定用PCRを実施すると、FH24-2ではcpxCD PCR陽性であるが、cps15C PCRのプライマーの結合部位の欠失のため、cps15C PCR陰性である(図1及び表1)。
  • 同一血清型のパルスフィールドゲル電気泳動(PFGE)型は同一か非常に類似することが報告されているが、FH24-2及びFH24-5と血清型15のPFGE型は非常に類似している。
  • 以上の成績から、FH24-2及びFH24-5は元々血清型15であったが、ISApl1によって莢膜合成遺伝子が変異し、莢膜が合成できないために型別不能であると結論づけられる。

成果の活用面・留意点

  • UT株が分離された場合、莢膜合成遺伝子の塩基配列を決定し、PFGEを実施すれば、既知の血清型の変異株であるか、あるいは新しい血清型であるかを識別できる。
  • これまで血清型別の代替法として、PCR法による血清型推定法が多数開発されているが、PCR法と血清型別法の結果の一致性を継続的に監視していく必要がある。

具体的データ

図1 型別不能株における莢膜合成遺伝子領域の欠失及び挿入変異?表1 血清型15推定用PCRの結果

その他

  • 予算区分:交付金
  • 研究期間:2016年度
  • 研究担当者:伊藤博哉、尾川寅太(福岡県)、深水大(福岡県)、森永結子(福岡県)、楠本正博
  • 発表論文等:Ito H. et al. (2016) J. Vet. Diagn. Invest. 28 (6):632-637