口蹄疫ワクチン投与後にウイルス感染した豚は識別キットで摘発できない

要約

口蹄疫ウイルス感染動物とワクチン投与動物の識別キットは、ワクチン投与後にウイルス感染した牛は検出できる。一方、ワクチン投与後にウイルス感染した豚は検出できない場合があり、感染豚を見逃す可能性がある。

  • キーワード:感染、抗体、口蹄疫、ワクチン
  • 担当:動物衛生研究部門・越境性感染症研究領域・海外病ユニット
  • 代表連絡先:電話 029-838-7937
  • 分類:研究成果情報

背景・ねらい

口蹄疫が清浄国で発生した際、防疫対策として緊急ワクチンを投与する場合がある。緊急投与に用いるワクチンはウイルスの非構造蛋白質を含まないため、ワクチン投与動物ではその抗体が産生されない。一方、ウイルス感染動物では非構造蛋白質に対する抗体が産生される。そのため、非構造蛋白質に対する抗体を指標に、ウイルス感染動物とワクチン投与動物の識別が可能であり、そのための識別キットが市販されている(図1)。
緊急ワクチンを投与した国は、ワクチン投与動物を殺処分する方針と殺処分しない方針のいずれも選択できるが、後者を選択した場合、前述の識別キットを用いてワクチン投与動物を検査することが国際機関により求められる。そこで今回、わが国で本病が発生して緊急ワクチンを投与した際、ワクチン投与動物を殺処分しない方針を選択する場合を想定し、感染試験で採取した経過血清を用いて識別キットの特異度および感度を評価する。

成果の内容・特徴

  • ワクチン投与した牛および豚では、識別キットにより抗体がほとんど検出されず、ワクチン投与牛および豚に対する識別キットの特異度は高い。
  • ワクチン投与後にウイルス接種した牛では、識別キットにより抗体が検出され、ワクチン投与後ウイルス感染牛に対する識別キットの感度は高い。
  • ワクチン投与後にウイルス接種した豚では、識別キットにより抗体が試験期間中全く検出されない個体や一時的あるいは間欠的にしか検出されない個体が存在し、ワクチン投与後ウイルス感染豚に対する識別キットの感度は低い(表1)。

成果の活用面・留意点

  • 国際的には、殺処分動物の埋却による環境汚染、動物福祉および希少な遺伝的資源の保全等の観点からワクチン投与動物を殺処分しない方針の選択を推奨する傾向にある。
  • 口蹄疫が清浄国で発生した際、緊急ワクチンを投与し、ワクチン投与動物を殺処分せずに識別キットを用いて検査するという方針を選択した場合、ウイルス感染した豚を見逃す可能性がある。
  • ワクチン投与からウイルス感染までの期間や感染ウイルス量等、野外では様々な状況が想定されるため、識別キットの実際の使用に当たっては慎重に議論する必要がある。

具体的データ

図1 ウイルス感染動物とワクチン投与動物が産生する抗体および識別キットの原理?表1 識別キットによるワクチン投与後ウイルス接種豚における非構造蛋白質に対する抗体の検出状況

その他

  • 予算区分:委託プロ(食の安全・動物衛生プロ)
  • 研究期間:2013~2016年度
  • 研究担当者:深井克彦、西達也、森岡一樹、山田学、吉田和生、北野理恵、山添麗子、菅野徹
  • 発表論文等:Fukai K. et al. (2016) J. Vet. Med. Sci. 78(3):365-373