2014年に分離されたH5N8亜型高病原性鳥インフルエンザウイルスの病原性
要約
2014年11月から2015年2月にかけて日本国内に侵入したH5N8亜型高病原性鳥インフルエンザウイルスは遺伝的に3系統に区別されるが、家禽での発生を起こしたものは1系統のみである。家禽由来のウイルスと他系統のウイルスとは鶏への病原性が異なる。
- キーワード:高病原性鳥インフルエンザウイルス、鶏、野鳥、H5N8亜型
- 担当:動物衛生研究部門・越境性感染症研究領域・インフルエンザユニット
- 代表連絡先:電話 029-838-7937
- 分類:研究成果情報
背景・ねらい
2014年11月から2015年2月にかけて日本国内では家禽での高病原性鳥インフルエンザ(HPAI)の発生のみではなく、野鳥に由来する検体からもH5N8亜型高病原性鳥インフルエンザウイルス(HPAIV)が分離された。本研究では、家禽での5件の発生から分離されたHPAIVと野鳥に由来するHPAIVの遺伝子解析を行うとともに、2014年12月に宮崎県延岡市の農場でHPAI発生を起こした宮崎株と2014年11月に千葉県の野鳥の糞便から分離されたHPAIVである千葉株の鶏に対する病原性を比較することにより、家禽のHPAI発生を起こすウイルス側の因子を明らかにすることを目的とする。
成果の内容・特徴
- 家禽における5件の高病原性鳥インフルエンザ(HPAI)の発生から分離されたH5N8亜型HPAIVのHA遺伝子は全てクレード2.3.4.4のうちの特定のグループ(日本系統)に属する。一方、野鳥糞便から分離された千葉株のHA遺伝子は、同じクレードの別のグループ(ヨーロッパ系統)に属している。また、同時期に国内の別の野鳥由来検体から、日本系統、ヨーロッパ系統、及び台湾系統に属するHPAIVが分離されている(表1)。
- 鶏への経鼻投与試験の結果、等量のウイルス(104 EID50)をニワトリに接種した場合、千葉株では全例死亡するのに対して、宮崎株では3/4のニワトリは、死亡せず、感染もしない(図1)。
- 宮崎株の50%鶏致死量は104.5 EID50/羽、千葉株の50%鶏致死量は103.5 EID50/羽であり、千葉株は宮崎株よりも少ないウイルス量で鶏に感染する(図1)。
成果の活用面・留意点
- 日本系統に属するウイルスのみが国内の家禽でのHPAIを起こした原因が、鶏への感染性が他系統よりも高いことで感染が容易であったという可能性は否定された。
- 家禽での発生が起こるためには、感染に必要なウイルス量だけでなく、野鳥などでの感染の広がり、野鳥からのウイルス排泄量、家禽間でのウイルス伝播の容易さや中間宿主への感染性なども重要な要因である。
具体的データ

その他
- 予算区分:委託プロ(食の安全・動物衛生プロ)
- 研究期間:2014~2016年度
- 研究担当者:谷川太一朗、金平克史、常國良太、内田裕子、竹前喜洋、西藤岳彦
- 発表論文等:Tanikawa T. et al. (2016) Microbiol. Immunol. 60(4):243-252