規模の大きい農場では豚インフルエンザウイルスの不顕性感染と遺伝子再集合が起こりやすい

要約

飼養頭数の多い養豚場では、豚インフルエンザウイルス(IAV-S)の不顕性感染が起こりやすく、そうした農場では豚やヒトで流行しているインフルエンザウイルスが遺伝子再集合した多様な遺伝子の組み合わせを持ったウイルスが分離される。

  • キーワード:豚、インフルエンザウイルス、農場、飼養数、不顕性感染
  • 担当:動物衛生研究部門・越境性感染症研究領域・インフルエンザユニット
  • 代表連絡先:電話 029-838-7937
  • 分類:研究成果情報

背景・ねらい

豚インフルエンザウイルス(IAV-S)は、豚に急性の呼吸器疾患を引き起こすだけでなく、不顕性感染によって豚群で維持されることが明らかになっている。また、豚は、ヒトや鳥で流行するA型インフルエンザウイルスに感染することがあるため、異なるウイルスが豚に同時に感染した場合、様々な遺伝子の組み合わせのウイルスが産生される(遺伝子再集合)。しかしながら、IAV-Sの調査の多くは、疾病の通報に伴い実施されるため、不顕性感染と遺伝子再集合の関連についてはよく分かっていない。ベトナムは、アジアで中国に次ぐ第2位の豚飼養頭数を誇り、数頭程度を飼養する家族経営農場から規模の大きい会社経営農場など多様な形態の養豚場を有している。この特性を活かし、IAV-Sの不顕性感染や遺伝子再集合に与える農場側の要因を明らかにすることを目的としている。

成果の内容・特徴

  • 本成果は、2010年2月から2013年12月までにベトナムの250農場を訪問し、臨床的に健康な豚から採取した鼻腔拭い液7,034検体からウイルス分離を試みるとともに各農場の経営形態、飼養頭数、豚導入記録などの疫学関連情報を収集して得られたものである。
  • IAV-Sが分離された22農場と分離されなかった228農場の疫学情報を比較した結果から、1,000頭以上の豚を有する農場では、IAV-Sの不顕性感染が起こりやすい(図1)。
  • IAV-Sが分離された22農場のうち、規模の大きい農場では、8本の遺伝子分節の由来が様々な組み合わせからなる遺伝子再集合体(豚流行株とヒト流行株の遺伝子再集合体)が分離されるが、飼養頭数が50頭より少ない農場で分離されたIAV-Sは、全て2009年以降ヒトで流行しているA(H1N1)pdm09ウイルスである(図2)。

成果の活用面・留意点

  • 規模の大きい養豚場においては、IAV-Sの不顕性感染の連鎖や遺伝子再集合による新しい遺伝型のインフルエンザウイルス出現のリスクが高いため、飼養方法の改善による豚から豚への感染連鎖を防ぐ対策や、呼吸器症状を呈している従業員を農場に入れないなどの管理体制の徹底が肝要である。
  • 飼養頭数の増加に起因するIAV-S対策は、ベトナムのみならず大規模な養豚業が行われている多くの国にとって共通の問題と考えられる。

具体的データ

図1 IAV-Sの不顕性感染が連鎖する要因?図2 農場規模の違いが豚インフルエンザウイルスの遺伝子再集合に与える影響

その他

  • 予算区分:競争的資金(医療研究開発推進)、その他外部資金(感染症研究国際ネットワーク推進プログラム[J-GRID])
  • 研究期間:2010~2016年度
  • 研究担当者:西藤岳彦、竹前喜洋、菖蒲川由郷(新潟大医)、斉藤玲子(新潟大医)、内田裕子
  • 発表論文等:Takemae N. et al. (2016) BMC Veterinary Research 12(1):227