ベトナムにおける豚インフルエンザウイルスの越境性伝播と種間伝播

要約

ベトナムの豚インフルエンザウイルスの出現には、海外からの豚の輸入に伴うウイルスの侵入や農場内でのヒトから豚への感染が繰り返し起こっていることが関与している。

  • キーワード:豚、インフルエンザウイルス、遺伝子再集合、ベトナム
  • 担当:動物衛生研究部門・越境性感染症研究領域・インフルエンザユニット
  • 代表連絡先:電話 029-838-7937
  • 分類:研究成果情報

背景・ねらい

豚は、鳥やヒトで流行するインフルエンザウイルスに対して感受性があるため、異なる由来のウイルスが豚に同時に感染した場合、新しい遺伝子の組み合わせを持ったウイルスが産生される(遺伝子再集合)ことがある。また、豚の国際的な移動は、通常は種豚などの輸出入と限られており、豚で流行する豚インフルエンザウイルス(IAV-S)には、主に3つの亜型(H1N1、H1N2、H3N2)が知られるが、同じ亜型でもその遺伝的な成り立ちは地域ごとに多彩である。ベトナムは、アジア第二位の豚生産大国である一方で、IAV-Sに関する情報は少ない。本研究では、ベトナムの養豚場やと畜場におけるIAV-Sを分離・収集し、ベトナムIAV-Sの感染動態を明らかにすることで、新型ウイルス出現機序の解明に資する情報を得る。

成果の内容・特徴

  • 2010-2015年にベトナムの養豚場とと畜場とで10,424頭の豚から採取した鼻腔拭い液から分離した388株のIAV-Sの全ゲノム配列を決定し、各遺伝子分節の遺伝的起源を推定した結果、ベトナムIAV-Sは、8分節の組み合わせから15遺伝型に分類される。
  • ベトナムIAV-Sには、北米由来のIAV-Sや季節性ヒトインフルエンザウイルスに由来する遺伝子が見出されることから、ベトナムでのIAV-Sの出現に、豚の輸入に伴うウイルスの侵入や農場内でのヒト→豚感染が関与していると考えられる(図1)。
  • ベトナムのIAV-Sに保持される北米IAV-S由来のPB2遺伝子分節の遺伝子配列と検体採取日の情報から、2000 年頃から2006年頃にかけて3つの異なる北米由来IAV-Sがベトナムに侵入していたと推定される(図2)。

成果の活用面・留意点

  • ベトナムIAV-Sの情報は、国際連合食料農業機関(FAO)と国際獣疫事務局(OIE)の動物インフルエンザウイルスの専門家ネットワークであるOFFLUにより毎年開催されている豚インフルエンザ専門家会合でおいて発表され国際的に活用されている。
  • 新型ウイルスの出現を防ぐには、農場内でのヒトから豚への感染防御に加え、国際的な豚の移動に伴うウイルス侵入を防ぐことが重要である。本知見は日本の動物検疫所で行われている輸入豚の全頭検査が、海外からのIAV-S侵入防御として重要であることを支持するものである。

具体的データ

図1 ベトナムで流行しているIAV-Sの成り立ち?図2 3つの異なる北米由来豚インフルエンザウイルスのベトナムへ侵入推定時期とベトナム豚群での流行状況

その他

  • 予算区分:競争的資金(医療研究開発推進)、その他外部資金(感染症研究国際ネットワーク推進プログラム[J-GRID])
  • 研究期間:2010~2016年度
  • 研究担当者:西藤岳彦、竹前喜洋、原田倫世、内田裕子
  • 発表論文等:Takemae N. et al. (2017) J. Virol. 91 (1): e01490-16