黄色ブドウ球菌のリポタイコ酸は免疫調整因子の発現を増強する
要約
ウシ乳腺上皮細胞は黄色ブドウ球菌(SA)構成成分のリポタイコ酸刺激により、好中球及びマクロファージ走化性免疫調整因子であるIL-8、CXCL6及びCCL2遺伝子の発現を増強する。
- キーワード:ウシ乳腺上皮細胞、CAGE、免疫調整因子、リポタイコ酸、黄色ブドウ球菌
- 担当:動物衛生研究部門・病態研究領域・寒地酪農衛生ユニット
- 代表連絡先:電話 029-838-7937
- 分類:研究成果情報
背景・ねらい
黄色ブドウ球菌(SA)はウシ乳房炎の主要な原因菌である。ウシの乳房内にSAが侵入した場合、感染初期から炎症反応が惹起され乳房炎を発症するが、その時の免疫応答あるいは炎症反応等の病態メカニズムについては不明な部分が多い。本研究は、SAの細胞壁構成成分であるリポタイコ酸あるいはホルマリン処理した死菌SAの刺激によって、ウシ乳腺上皮細胞において発現強度が増加する遺伝子を明らかにし、SA性乳房炎時の免疫応答に関与する因子を見出すことを目的としている。
成果の内容・特徴
- 特定の刺激によって変動する遺伝子を網羅的に検出することができるCap Analysis of Gene Expression(CAGE)法を用いることにより、ウシ乳腺上皮細胞においてリポタイコ酸及び死菌SA刺激によって発現が増加する遺伝子を見出す(図)。その結果、両刺激に共通して発現が増加する遺伝子のうち、IL-8、CXCL6、CCL2、MX2、IL1A、NFKBIZ及びPTGS2は、免疫応答あるいは炎症反応に関連している(表)。
- ウシ乳腺上皮細胞をリポタイコ酸及び死菌SAで刺激することによって、好中球及びマクロファージ走化性の免疫調整因子であるIL-8、CXCL6及びCCL2が検出される(表)。
- SA性乳房炎の初期炎症反応は、IL-8、CXCL6、CCL2がリポタイコ酸刺激によってウシ乳腺上皮細胞から産生され、その後、好中球やマクロファージが誘導されることによって惹起されている可能性がある。
成果の活用面・留意点
- CAGE法を用いた遺伝子発現プロファイルの解析は、疾患モデルの病態解明や新しいバイオマーカーの同定に活用できる。
- SA性乳房炎発症時には多数の好中球が乳房内に動員されることから、その動員に関与するリポタイコ酸の測定が病態把握に有効となる可能性がある。
具体的データ

その他
- 予算区分:委託プロ(生産システム)、競争的資金(科研費)
- 研究期間:2013~2016年度
- 研究担当者:菊佳男、長澤裕哉、田邉扶由子、菅原和恵、渡部淳、秦英司、尾澤知美、中島恵一、新井敏郎(日獣大)、林智人
- 発表論文等:Kiku Y. et al. (2016) J. Vet. Med. Sci. 78(9):1505-1510