豚由来病原性大腸菌における伝達性コリスチン耐性遺伝子保有率の増加

要約

国内で分離された豚由来病原性大腸菌において、高い伝播能を持ち2007年に初めて確認されたコリスチン耐性遺伝子mcr-1を保有する株が2011年以降に急増している。

  • キーワード:豚由来病原性大腸菌、コリスチン耐性、mcr-1
  • 担当:動物衛生研究部門・細菌・寄生虫研究領域・腸管病原菌ユニット
  • 代表連絡先:電話 029-838-7937
  • 分類:研究成果情報

背景・ねらい

コリスチン(CL)は牛や豚の細菌性下痢症の治療に用いられているが、近年では人用医薬品として多剤耐性グラム陰性桿菌(緑膿菌やアシネトバクター属など)に対する効果が再評価されている。従来型のCL耐性メカニズムは染色体の変異であり他の菌へ伝播する可能性は極めて低いが、中国の豚由来大腸菌において最近同定されたCL耐性遺伝子mcr-1によるCL耐性はプラスミドを介する高い伝播能があることから、国際的に問題視されている。そこで、国内の豚から分離された主要O群血清型(O139、O149、O116、OSB9)の病原性大腸菌684株について、CL耐性株およびmcr-1の分布状況を明らかにする。

成果の内容・特徴

  • 試験した684株においてCLに対する耐性の強さ(最小発育阻止濃度:MIC)は二峰性分布を示し、欧州抗菌感受性試験委員会(EUCAST)の基準に従い、MICが4 μg/ml以上の309株(45.2%)がCL耐性と判定される(図1)。
  • 全684株のうち90株(13.2%)がmcr-1保有株であり、そのすべてがCL耐性(MIC≧8 μg/ml)である(図1)。
  • mcr-1保有株は2007年に初めて確認され、試験した684株におけるmcr-1の保有率は2011年以降に急増している(図2)。

成果の活用面・留意点

  • mcr-1保有CL耐性株のMIC分布はmcr-1を保有しないCL耐性株と同等、すなわちmcr-1がもたらすCL耐性の強さは従来型の染色体変異によるCL耐性メカニズムと同等である。
  • mcr-1によるCL耐性の問題点はプラスミドを介した伝播能の高さであり、今後も養豚農家におけるmcr-1の分布状況を注視する必要がある。

具体的データ

図1 コリスチンに対するMICの分布?図2 mcr-1保有率の推移

その他

  • 予算区分:競争的資金(科研費、医療研究開発推進)
  • 研究期間:2015~2016年度
  • 研究担当者:楠本正博、小椋義俊(九大医)、後藤恭宏(九大医)、岩田剛敏、林哲也(九大医)、秋庭正人
  • 発表論文等:Kusumoto M. et al. (2016) Emerg. Infect. Dis. 22(7):1315-1317