L型非定型牛海綿状脳症(BSE)は牛に経口的に伝達される

要約

L型非定型BSEに感染している牛の脳材料50gを牛に経口的に接種すると、88ヶ月後に起立不能となり、脳に異常プリオンタンパク質が蓄積することから、L非定型BSEが牛に経口的に伝達されることが確認される。

  • キーワード:非定型BSE、プリオン、経口感染
  • 担当:動物衛生研究部門・越境性感染症研究領域・プリオン病ユニット
  • 代表連絡先:電話 029-838-7937
  • 分類:研究成果情報

背景・ねらい

L型非定型牛海綿状脳症(BSE)は、脳内接種により牛、牛型プリオン蛋白質発現マウス、サル等へ伝達されるが、現在までのところL型非定型BSEが牛に経口的に伝達されるかは不明である。非定型BSEプリオンが牛に経口的に伝達されるかを明らかにすることは、リスクを考える上で有用な情報となることから、国内で確認されたL型非定型BSEの材料を牛に経口投与することで、L型非定型BSEが牛に伝達されるかを明らかするとともに、牛の体内における異常プリオンタンパク質(PrPSc)の分布を解析する。

成果の内容・特徴

  • L型非定型BSE感染脳50gを2頭の牛に経口接種すると、従来型BSEの潜伏期(34~84ヶ月、平均58.4ヶ月)よりも長い88ヶ月の潜伏期で1頭が起立不能となる(表1)。
  • L型非定型BSEを脳内接種した牛で観察される特徴的な臨床症状(元気消失、頭を下げる、食欲減退など)は確認されない。
  • PrPScの脳内蓄積分布を調べたところ、PrPScは視床(視覚、聴覚、体性感覚などの情報を中継する重要な役割を担う)、中脳や延髄などの脳幹(多くの生命維持機能の重要な役割を担う)や脊髄に多く、大脳(知覚情報を分析したり随意運動を統御する役割を担う)では少ない(図1上段)。
  • 中枢神経系(脳や脊髄)におけるPrPSc蓄積分布は、L型非定型BSE自然発生牛や脳内接種牛のそれとは異なる。
  • 脳や脊髄以外の末梢神経系組織(神経節、迷走神経など)、網膜、視神経、下垂体、副腎、眼筋などにもPrPScが蓄積する(図1下段)。

成果の活用面・留意点

  • 5gの従来型BSE感染牛の脳を牛に経口投与すると34~83ヶ月(平均58ヶ月)でBSEを発症する(表1)が、L型非定型BSE感染脳乳剤を1g、5g及び10gを経口接種された牛では接種後51ヶ月から86ヶ月までの間で伝達は確認されないことから、L型非定型BSEは従来型BSEに比べて牛への感染リスクは低いと考えられる。
  • 動物性タンパク質の飼料規制などのBSE管理措置やリスク評価を議論する際に有用な知見になると考えられる。
  • 残るL型非定型BSE感染脳50gを経口接種している牛1頭については経過観察中である。

具体的データ

表1 従来型BSEとL型非定型BSEの潜伏期間(月)?図1 L型非定型BSE感染脳乳剤50g経口接種牛でのPrPSc蓄積分布

その他

  • 予算区分:委託プロ(食の安全・動物衛生プロ)
  • 研究期間:2013~2016年度
  • 研究担当者:岡田洋之、岩丸祥史、今村守一、宮澤光太郎、松浦裕一、舛甚賢太郎、村山裕一、横山隆
  • 発表論文等:Okada H. et al. (2017) Emerg. Infect. Dis. 23(2) : 284-287