日本で初めて確認された羊の非定型スクレイピー
要約
国内における12ヶ月齢以上で死亡しためん羊及び山羊並びに鹿を対象とする伝達性海綿状脳症(TSE)の監視・調査の結果、2016年に我が国で初めてとなる非定型スクレイピーが11歳のコリデール羊で確認された。
- キーワード:非定型スクレイピー、法定伝染病、監視・調査、異常型プリオン蛋白質
- 担当:動物衛生研究部門・越境性感染症研究領域・プリオン病研究ユニット
- 代表連絡先:電話 029-838-7937
- 分類:研究成果情報
背景・ねらい
伝達性海綿状脳症(TSE)は、異常型のプリオン蛋白質(PrPSc)を病原体とする伝達性の致死性神経変性疾患であり、牛海綿状脳症(BSE)や鹿類の慢性消耗病などが含まれる。スクレイピーはめん羊・山羊のTSEであり、我が国では法定伝染病に指定されている。1998年にノルウェーで従来型のスクレイピーとはPrPScの性状が異なる非定型スクレイピーが発見されて以降、ヨーロッパ各国や北米、さらには従来型スクレイピーの清浄国であるニュージーランド、オーストラリアでもその発生が報告されている。その起源は不明であるが、同じ群れの中で複数の個体に発生することが少なく、老齢の個体(平均6.5歳)に発生が多いことから、老化に伴って自然発生する可能性が指摘されている。現在、我が国では家畜伝染病予防法に基づき、12ヶ月齢以上で死亡しためん羊及び山羊並びに鹿を対象にTSEの監視・調査を実施しており、2016年に我が国で初めてとなる非定型スクレイピーが確認された。
成果の内容・特徴
- 好発年齢やウェスタンブロット(WB)検査によるPrPScのバンドパターンなど従来型スクレイピーと非定型スクレイピーの間には多くの違いが認められるが、臨床症状には共通点が多い。ただし、掻痒症状は主に従来型スクレイピーの症例に観察される(表1)。
- 検査対象のコリデール羊(11歳)の延髄かんぬき部を試料としたWB検査により、英国の非定型スクレイピー発症羊に類似した特徴的なハシゴ状のPrPScバンドパターンが検出できる(図1:レーン1、2および7)。検査対象の羊のPrPScバンドパターンは従来型スクレイピー発症羊とは異なる(図1:レーン7と9)。なお、同居羊の脳からはPrPScは検出されない(図1:レーン3と4)。
成果の活用面・留意点
- WB法と免疫染色法に基づく現行のTSE検査方法により、従来型スクレイピーだけでなく、非定型スクレイピーも摘発できる。
- 実験的には非定型スクレイピーも伝達性を有するが、従来型スクレイピーとは異なり、これまでのところ自然条件下での垂直・水平伝播は確認されていないため、家畜間での蔓延リスクは低いと考えられる。
具体的データ

その他
- 予算区分:委託プロ(食の安全・動物衛生プロ)
- 研究期間:2013~2016年度
- 研究担当者:今村守一、宮澤光太郎、岩丸祥史、松浦裕一、横山隆、岡田洋之
- 発表論文等:Imamura M. et al. (2016) J. Vet. Med. Sci. 78(12):1915-1919