ヘパラン硫酸は正常型プリオン蛋白質から異常型構造への変換を誘導する
要約
プリオン病感染動物の脳において蓄積する異常型プリオン蛋白質と共局在するヘパラン硫酸は、硫酸基を介して正常型プリオン蛋白質および異常型プリオン蛋白質と結合することにより、試験管内におけるプリオン蛋白質の異常型への変換を誘導する。
- キーワード:protein misfolding cyclic amplification (PMCA)、ヘパラン硫酸、ヘパリン
- 担当:動物衛生研究部門 越境性感染症研究領域 プリオン病ユニット
- 代表連絡先:電話 029-838-7937
- 分類:研究成果情報
背景・ねらい
グリコサミノグリカンの一種であるヘパラン硫酸はウロン酸とグルコサミンで構成される二糖単位が数十回繰り返した構造をとる鎖状の多糖類である(図1)。ヘパラン硫酸はプリオン病感染動物の脳において蓄積する異常型プリオン蛋白質(PrPSc)と共局在しており、プリオン病との関わりが示唆されている。しかし、実際に正常プリオン蛋白質(PrPC)からPrPScへの構造変換に関わっているか否かは明らかになっていない。本研究では、バキュロウイルス由来組換えプリオン蛋白質(Bac-PrP)を用いたprotein misfolding cyclic amplification (PMCA)と呼ばれる試験管内PrPSc増幅法を用いてヘパラン硫酸がPrPCからPrPScへの構造変換に関与するか否かを明らかにする。
成果の内容・特徴
- 試験管内でPrPScの増幅を誘導することが知られている核酸がPMCA反応液中に存在している場合、内在性ヘパラン硫酸を除去してもBac-PrPは異常型構造(Bac-PrPSc)への変換は影響されない。
- PMCA反応液から核酸を除去することによりBac-PrPScへの変換は阻害されるが、ヘパラン硫酸またはその類似物質であるヘパリンの添加により反応液の変換活性が回復する(図2)。
- 核酸を除去した反応液に硫酸基欠損ヘパリンを加えてPMCAを行っても、変換活性は十分に回復しない。この実験結果から、ヘパリンおよびヘパラン硫酸に含まれる硫酸基がBac-PrPScへの変換に重要であることが示唆される。
- ヘパリンは硫酸基を介してBac-PrPCおよびBac-PrPScと結合するから、ヘパラン硫酸も同様に硫酸基を介してBac-PrPおよびBac-PrPScと結合すると考えられる。
成果の活用面・留意点
- ヘパラン硫酸は、硫酸基を介してPrPCおよびPrPScと結合し、PrPScの複製を促進することでプリオン病の発症に関わると推定される。
- 組換えプリオン蛋白質を用いたPMCA法はPrPScの複製に必要な補因子を同定する技術として有用である。
- 本研究はPrPScの変換・増幅機構の解明の一助となることが期待される。
具体的データ

その他
- 予算区分:交付金、委託プロ(食の安全・動物衛生プロ)
- 研究期間:2013~2016年度
- 研究担当者:今村守一、多辺田奈保子、加藤伸子、松浦裕一、岩丸祥史、横山隆、村山裕一
- 発表論文等:Imamura M. et al. (2016) J. Biol. Chem. 291(51):26478-26486