乳房内注入する免疫調整因子の種類によって乳房炎症状の軽減機序は異なる

要約

黄色ブドウ球菌性乳房炎の乳房内に注入した組換え牛顆粒球マクロファージ・コロニー刺激因子及びインターロイキン8は、異なる機序で乳房炎症状を軽減させる。

  • キーワード:黄色ブドウ球菌性乳房炎、GM-CSF、IL-8、乳房内注入、乳汁単核球構成
  • 担当:動物衛生研究部門・病態研究領域・寒地酪農衛生ユニット
  • 代表連絡先:電話029-838-7937
  • 分類:研究成果情報

背景・ねらい

薬剤耐性菌出現の観点から産業動物医療分野においても抗菌剤使用の低減が望まれている。乳用牛の疾病の約3割を占める乳房炎に対する治療は、大部分で抗菌剤が用いられているため、新たな治療技術の開発が求められている。特に黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus:SA)性乳房炎については、抗菌剤治療の効果が得られにくいためその要望が大きい。本研究は、薬剤耐性菌を出現させない組換え牛顆粒球マクロファージ・コロニー刺激因子(rbGM-CSF)およびインターロイキン8(rbIL-8)を、SA性乳房炎の乳房内に注入することによって得られる治療効果と、その作用機序を明らかにすることを目的とする。

成果の内容・特徴

  • SA性乳房炎罹患乳房内にrbGM-CSFあるいはrbIL-8を注入すると、それぞれ乳房炎症状の指標である乳汁中のCMTスコアを経時的に低減し、その程度はrbGM-CSFがrbIL-8よりも強い傾向にある(図1)。
  • SA数は、rbGM-CSF注入群およびrbIL-8注入群ともに注入後0.25~1日に一時的に減少する。
  • 乳汁中の貪食細胞活性は、rbGM-CSF注入群およびrbIL-8注入群ともに注入直後から増加する(図2)。
  • 乳汁中の単核球構成は、rbGM-CSF注入群では注入後1~3日にリンパ球およびマクロファージ(単核細胞)の割合が上昇するが、rbIL-8注入群では、その反応が見られない(図2)。
  • 乳房内rbGM-CSF注入は、乳汁中の貪食細胞および単核細胞の両者への免疫賦活効果を有しており、rbIL-8とは異なる作用機序を示す。

成果の活用面・留意点

  • 免疫調整因子であるrbGM-CSFおよびrbIL-8は、抗菌剤に替わる乳房炎治療薬として活用できる可能性がある。
  • rbGM-CSFおよびrbIL-8の効果を持続させる技術や大量生産技術、製造コストの低減技術を開発する必要がある。

具体的データ

図1. SA性乳房炎罹患乳房内へのrbGM-CSF、rbIL-8及びリン酸緩衝液(PBS)注入によるCMTスコアの推移(*:p<0.05、**:p<0.01);図2. SA性乳房炎罹患乳房内へのrbGM-CSF及びrbIL-8注入による乳房炎軽減効果と免疫誘導作用

その他

  • 予算区分:競争的資金(科研費)
  • 研究期間:2013~2016年度
  • 研究担当者:菊佳男、尾澤知美、髙橋秀之、櫛引史郎、犬丸茂樹、新宮博行、長澤裕哉、渡部淳、秦英司、林智人
  • 発表論文等:Kiku Y. et al. (2017) Vet. Res. Commun. 41(3):175-182