電流検出型DNAチップを用いた乳房炎原因微生物の検出法の開発

要約

牛乳房炎原因微生物のゲノムDNAを特異的に検出する高感度電流型DNAチップを用いた乳汁中乳房炎原因微生物の検出法を新たに開発した。本法は、従来の微生物培養法に比べて迅速かつ高感度であり、より精度の高い結果が得られる。

  • キーワード:牛乳房炎、DNAチップ、LAMP、乳汁、乳房炎原因微生物
  • 担当:動物衛生研究部門・病態研究領域・寒地酪農衛生ユニット
  • 代表連絡先:電話029-838-7937
  • 分類:研究成果情報

背景・ねらい

牛の乳房炎の発症は酪農経営において大きな経済的な損失になる。乳房炎を効果的に制御するためには、乳房炎原因微生物を感染初期の段階で正確に同定して速やかに適切な治療をすることが重要である。従来の細菌培養法による乳汁中乳房炎原因微生物の同定は、操作が複雑、判定が不安定でありかつ結果が得られるまでに数日を要するなどの欠点があった。本研究では、微生物のゲノムDNAを特異的に検出することのできる高感度電流検出型DNAチップを用い、迅速で高感度な乳房炎原因微生物の新しい同定法を開発した。

成果の内容・特徴

  • 乳房炎原因微生物の代表的な12種属の微生物DNA(表)について、乳汁を前処理して検体として増幅・同定する最適な条件を決めた。本法は細菌培養法に比して短時間で結果が得られる。
  • 従来の細菌培養法による乳房炎原因微生物の同定は、結果を得るまでの操作が複雑でかつ判定に習熟度を要するなどの欠点があったが、本法を用いることで安定した結果が得られる(図)。
  • DNAチップ法で得られた結果と細菌培養法で得られ結果の一致率は、最低でも86.9%以上であり、臨床現場における乳房炎診断に利用が可能である。
  • 本技術を乳房炎防除管理プログラムに導入することで、牛群における乳房炎の防除にさらに高い効果が期待できる。

成果の活用面・留意点

  • 本法は「核酸の定量方法、それに使用されるプライマーセット、DNAチップおよびアッセイキット、並びにそれを利用する常在菌の判定方法」の特許6226460の取得内容が含まれる(平成29年10月20日登録)。
  • 本法は「乳中の微生物を濃縮および乳中の微生物の核酸を回収する方法」で特許出願(特開特開2014-060984、平成26年4月10日出)の内容が含まれる(該当技術の論文:of Veterinary Medical Science(2015)Aug;77(8):1007-1009,doi:10.1292/jvms.14-0159)。
  • 現時点では検出器にかける前の段階で検体(乳汁)を処理する作業が必要であるが、今後、直接乳汁を検体として結果の得られる自動化をめざす。

具体的データ

表 DNAチップ法で牛乳汁から検出できる乳房炎原因微生物;図 DNAチップ法による乳房炎乳汁の解析結果の一例

その他

  • 予算区分:その他外部資金(地域再生)
  • 研究期間:2012~2016年度
  • 研究担当者:林智人、秦英司、勝田賢、菊佳男、田川裕一、河合一洋(麻布大)、稲田美雅(東芝(株))、伊藤桂子(東芝(株))、橋本幸二(東芝(株))、二階堂勝(東芝(株))
  • 発表論文等:Kawai, K. et al.)1973-1977,