体表温の変動から牛の発情を検知する

要約

尾根部腹側に装着した無線小型体表温センサによって体温変動をモニタリングすることで、牛の発情を検知できる。体表温変動による発情検知は、活動量の増加を検出することの難しい繋ぎ飼いや鈍性発情牛の発情検知に効果的である。

  • キーワード:IoT、ウェアラブルセンサ、尾根部体表温、季節変動、発情検知
  • 担当:動物衛生研究部門・病態研究領域・繁殖障害ユニット
  • 代表連絡先:電話029-838-7937
  • 分類:研究成果情報

背景・ねらい

生体恒常性のひとつである体温調節機能は、炎症やストレス性の発熱、栄養障害や内分泌障害による低体温など様々な要因によって変調をきたすため、体温のモニタリングは、健康状態の把握や様々な疾病の徴候を早期に発見するために有効である。また、体温は発情周期や分娩、泌乳に伴っても生理的な範囲で変動する。そこで、尾根部の体表温を連続的に計測できる無線小型体表温センサを用い、体温変動から発情を検知する方法を開発する。

成果の内容・特徴

  • 無線小型体表温センサ(図1)を牛の尾根部腹側へ装着して(図2)、体表温を概ね1ヶ月以上連続的に計測することができる。
  • センサデータは携帯電話回線やインターネット回線を利用してクラウド上に収集し、管理することができる。
  • 体表温の日内平均値は季節によって変動するものの、前3日間の同時刻平均値との差を算出すると、その日内平均値は季節差を認めない(図3)ことから、体温変動の異常を検知するための解析に活用できる。
  • 前3日間の同時刻平均値との差は、発情1日前に低下し、発情日には高値となる(図4)。これを指標として発情検知が可能である。なお、いくつかの閾値を用いて発情検知精度を検討すると、75~90%の発情検知率(実際の発情を示した例数のうち、センサによって発情であると検知できた割合)および50~70%の陽性適中率(センサによって発情であると判定したうち、実際に発情であった割合)が得られる。
  • 活動量を指標とした発情検知法は、行動に制限のかかるスタンチョンストール飼育では、単房飼育に比べ発情検知率が有意に低下するが、体表温センサによる発情検知率に差は認められない。

成果の活用面・留意点

  • 体表温センサは、製品化に向けた取り組みを行っている。
  • 体温は発熱などの内的および急激な気温変動などの外的要因により影響を受けるため、これらの要因を排除して発情に伴う変動のみを抽出することが難しく、しばしば誤検知が起きる。
  • 体表温による発情検知精度の向上のためには、環境温度などの影響を補正する手法の開発のほか、別の生体情報との併用や飼養環境情報、ベンチマーキング情報等を考慮したアルゴリズムの開発および人工知能を活用したアプリケーションシステムの構築などの技術開発が必要である。

具体的データ

その他

  • 予算区分:その他外部資金(SIP、28補正「AIプロ」)
  • 研究期間:2014~2017年度
  • 研究担当者:吉岡耕治、檜垣彰吾、岡田浩尚(産総研)、三浦亮太朗(日獣大)
  • 発表論文等:
  • 1)Miura R. et al. (2017) Anim. Reprod. Sci. 180:20-57
    2)吉岡(2017)臨床獣医、38(7):81-86