サルモネラが産生する毒素ArtA/ArtBはマウスに対して致死活性を示す
要約
サルモネラの一部の血清型は百日咳毒素と類似した毒素であるArtA/ArtBを産生する。それはマウスに対してマクロファージの機能を失調させ、致死活性を示す。
- キーワード:牛、サルモネラ、毒素、ArtA/ArtB
- 担当:動物衛生研究部門・細菌・寄生虫研究領域・腸管病原菌ユニット
- 代表連絡先:電話029-838-7937
- 分類:研究成果情報
背景・ねらい
Salmonella enterica serovar Typhimurium(S.Typhimurium)は牛サルモネラ症の主要な原因血清型である。S.Typhimuriumのうちファージ型DT104(DT104)は世界各地で家畜および人から分離されており、疫学的観点から高病原性であると考えられている。我が国においては、1992年以降乳用牛におけるサルモネラ症が増加し、同時期にDT104の分離頻度が上昇したことから、関連が疑われている。DT104はADP-リボシル化毒素として知られる百日咳毒素と類似した酵素ArtA/ArtBを産生することが報告されているが、その機能および作用機序は未解析である。本研究ではArtA/ArtBの生化学的性状を解析し、DT104によるサルモネラ症発症のメカニズムを解明することを目的とする。
成果の内容・特徴
- ArtA/ArtBはS.Typhimuriumに加えて他の血清型であるS.Worthington、S.Agoueve、さらに他菌種であるS.bongoriにおいても産生され、サルモネラ属菌に分布する新たな病原因子と考えられる。
- ArtA/ArtBのAサブユニット(ArtA)はマウスマクロファージから分離したGi蛋白質をADP-リボシル化する。
- ArtA/ArtBを添加したマウスマクロファージにおいてGi蛋白質のADP-リボシル化が見られ、細胞内cAMP濃度が上昇したことから、ArtA/ArtBはGi蛋白質のADP-リボシル化を介して細胞内cAMP濃度を上昇させると考えられる(図1)。これによりマクロファージの食菌能や活性酸素産生能が低下することが予想される。
- ArtAのADP-リボシル化作用が百日咳毒素と競合しなかったことから、ArtAは百日咳毒素とは異なる標的もADP-リボシル化すると考えられる。
- ArtA/ArtBはマウスに対して致死活性を示す(表1)。致死活性はDT104由来ArtA/ArtBで最も高く、人や動物に低病原性であるS.bongori由来ArtA/ArtBでは低い。
成果の活用面・留意点
- DT104由来ArtA/ArtBは乳用牛のサルモネラ症と関連する可能性があり、今後も解析を続ける必要がある。
具体的データ

その他
- 予算区分:競争的資金(科研費)
- 研究期間:2016~2018年度
- 研究担当者:玉村雪乃、田中聖、内田郁夫
- 発表論文等:Tamamura Y. et al. (2017) Sci. Rep. 1;7(1):2653
- doi:10.1038/s41598-017-02517-2