キチンにより誘導されるイネの防御シグナルはBSR1を介して伝達される

要約

イネの複合病害抵抗性遺伝子BSR1は、糸状菌由来成分であるキチンにより誘導されるイネの防御シグナル伝達に関与している。本研究成果は複合病害抵抗性イネを開発するための重要な知見となる。

  • キーワード:イネ、病害抵抗性、キチン、シグナル伝達、ゲノム編集
  • 担当:生物機能利用研究部門・微生物機能利用研究領域・植物機能制御ユニット
  • 代表連絡先:電話029-838-8361
  • 分類:研究成果情報

背景・ねらい

糸状菌によるいもち病、ごま葉枯病、細菌による籾枯細菌病、白葉枯病はイネ(Oryza sativa L.)の重要病害である。我々はこれまでに、イネ由来の病害抵抗性遺伝子BSR1(BROAD-SPECTRUM RESISTANCE 1;受容体様細胞内リン酸化酵素をコード)を高発現するイネは、原品種の「日本晴」に比べ、これら4種の病害に抵抗性になることを報告している(2016年度研究成果情報http://www.naro.affrc.go.jp/project/results/4th_laboratory/nias/2016/nias16_s09.html)。本研究はその抵抗性機構解明を目指したものである。ゲノム編集法によりBSR1の機能欠損(ノックアウト)イネを作出し、BSR1のイネにおける本来の役割を明らかにする。

成果の内容・特徴

  • ゲノム編集法のCRISPR/Cas9法により作出した3種類のノックアウトイネでは、BSR1遺伝子の開始コドンのすぐ後ろに、それぞれフレームシフト変異を有する(図1)。
  • イネ培養細胞に糸状菌由来成分であるキチンを添加すると、原品種で防御応答が誘導され、活性酸素である過酸化水素(H2O2)生産が増大し、防御関連遺伝子(PBZ1,PAL等)の発現誘導が起こる(図2)。それに対して3種のノックアウトイネでは過酸化酸素生産レベル、防御関連遺伝子の発現誘導レベルが、原品種に比べ低下している。このことは、イネにおいてキチンにより誘導される活性酸素生産、防御関連遺伝子の発現にBSR1が関与していることを示す。
  • 糸状菌に由来するキチンは、本来イネの細胞膜上の受容体複合体CEBiP/OsCERK1により受容され、そのシグナルが伝達された結果、NADPH酸化酵素による活性酸素生産、防御関連遺伝子の発現誘導が起こることが知られている。本研究はそのシグナルがBSR1を介して伝達されることを示す(図3)。

成果の活用面・留意点

  • BSR1高発現イネを複合病害抵抗性イネとして実用化する際には、BSR1による抵抗性機構が明らかになっている必要がある。本研究成果は、実用化に向けた重要な知見となる。
  • BSR1高発現イネにキチンを処理した際に、原品種以上の活性酸素生産、防御関連遺伝子の発現誘導が起こるかどうかについても調べる必要がある。
  • BSR1が細菌由来成分により誘導される防御シグナル伝達に関与しているかどうかについても、調べる必要がある。

具体的データ

図1 BSR1遺伝子のゲノム編集法による破壊と得られた3種のノックアウト(KO)変異体ボックスで囲った20塩基は標的配列。矢印はCRISPR/Cas9による切断部位;図2 イネ培養細胞へのキチン添加により誘導される防御反応のBSR1依存性;図3 キチン受容により誘導されるイネ本来の防御機構におけるBSR1の役割

その他

  • 予算区分:交付金、委託プロ(次世代ゲノム)
  • 研究期間:2016~2017年度
  • 研究担当者:森昌樹、神田恭和、横谷尚起、前田哲、西澤洋子、鎌倉高志(東理大理工)
  • 発表論文等:Kanda et al. (2017) Biosci. Biotech. Biochem. 81(8):1497-1502