ダイズ代謝系シミュレイションモデルは耐湿性関連遺伝子の絞り込みに有効である
要約
シミュレイションモデル構築と検証により、解糖系とクエン酸回路周辺の代謝系を対象にした好気・嫌気呼吸を切換えるモデルを構築することで、冠水ストレス応答に鍵となる遺伝子群を検出することができる。
- キーワード:ダイズ、出芽期、冠水ストレス、シミュレイションモデル、プロテオミクス
- 担当:次世代作物開発研究センター・基盤研究領域・フィールドオミクスユニット
- 代表連絡先:電話 029-838-7007
- 分類:研究成果情報
背景・ねらい
わが国の水田転換畑におけるダイズの栽培では、障害が発生し生産が不安定となるので、湿害を回避する技術が必要である。ダイズは出芽期の数日間の冠水で根に障害が発生しその後の生育遅延を招く。出芽期ダイズの冠水抵抗性機構に関する分子生物学的知見を得ることを目指す。冠水ストレス下のダイズをオミクス技術により包括的に解析することにより得られたデータを元に、オミクス統合モデルによるシミュレイション法を開発する。その利用により、鍵となる遺伝子群を検出する技術に適応し、効果を明らかにする。
成果の内容・特徴
- ミカエリスメンテン式のパラメータVmaxを無処理時と冠水ストレス時で差分的に設定する、というコンセプトに基づいたモデル構築法を差分シミュレイション法として体系化した。そして、差分シミュレイション法を代謝系シミュレィションプログラム(WinBEST-KIT)と共にダイズ出芽時の冠水応答に適用する。
- ダイズ冠水ストレスにより得られたオミクス情報を元にシミュレイションモデルを構築し、実験値との相関性を解析した結果、決定係数(r2)は0.9617と非常に高い値を示す(図1)。
- 解糖系とクエン酸回路周辺の代謝系を対象にした好気・嫌気呼吸を切換えるモデルで再現でき、冠水ストレス時に濃度が差分的に変化する複数の酵素の存在が新たに示唆される。特に冠水ストレス応答には、ピルビン酸脱炭酸酵素の遮断に加え、アラニンアミノ基転移酵素の抑制とグルタミン酸脱水素酵素の亢進も重要であることが明らかである(図2)。
- ダイズ播種後2日目で冠水処理時に2日間5 nmおよび135 nmナノアルミナ粒子で処理した。ダイズの根の生長は、冠水下で抑制されるが、5 nmナノアルミナ粒子処理により緩和される。タンパク質を抽出後、ゲルフリー・ラベルフリープロテオミクス解析技術により解析し、変動するタンパク質を機能分類しMapManソフトにより、可視化した。アラニンアミノ基転移酵素量は、冠水下と比較して、5 nmナノアルミナ粒子処理により。増加することが明らかである(図3)。
- 従来説では、冠水時にピルビン酸脱炭酸酵素を遮断するとされてきたが、アラニンアミノ基転移酵素を介する酵素反応を抑制したモデルの方が高い決定係数が得られる。
成果の活用面・留意点
- 本シミュレイションモデルの精度を高めるために、冠水ストレス耐性を示す突然変異体等を利用して、さらに検証する必要がある。
具体的データ
その他
- 予算区分:交付金、競争的資金(科研費)
- 研究期間:2015~2016年度
- 研究担当者:小松節子、坂田克己(前橋工科大)、中村卓司、MUSTAFA Gazara
- 発表論文等:
1) Sakata K., Saito T., Ohyanagi H., Okumura J., Ishige K., Suzuki H., Nakamura T. and Komatsu S. (2016) Sci. Rep. 6:35946
2) Mustafa G. and Komatsu S. (2016) J. Proteome Res. 15:4464-4475