カキ「富有」におけるカキノヘタムシガ第1世代幼虫の防除適期は満開10日後である

要約

カキノヘタムシガの第1世代幼虫がまだカキの芽から果実に移動していない「富有」の満開10日後を防除適期と設定することにより、「富有」の生育状況が平年と相違しても被害を効果的に抑制できる。

  • キーワード: カキノヘタムシガ、カキ、富有、満開日、防除適期
  • 担当: 果樹茶業研究部門・ブドウ・カキ研究領域・ブドウ・カキ病害虫ユニット
  • 代表連絡先: 電話 0846-45-4714
  • 分類: 普及成果情報

背景・ねらい

カキノヘタムシガ(Stathmopoda masinissa)はカキの芽や果実を加害する害虫である。本種は年2回発生し、主に芽に産卵し、ふ化した幼虫はいくつかの芽を食害した後、果実を食害する。食害された果実はやがて変色して落果する。果実内部に食入した幼虫には散布した薬液が十分に到達しないため、防除は幼虫が果実に食入する前までに実施する必要がある。カキノヘタムシガの防除適期は成虫の発生状況や幼虫による芽の食害発生時期を調べることで把握できるが、これらの調査は労力的に負担が大きく技術的にも習熟を要することから、個々の農家レベルでは防除暦に従った散布が行われることが多く、カキノヘタムシガの発生およびカキの生育ステージを反映した適切な防除が困難であった。これらのことから、「富有」の満開日と第1世代幼虫の芽および果実食入時期の関係を解明し、「富有」の満開日を指標とした省力かつ簡便な防除適期の把握法を開発する。

成果の内容・特徴

  • 2012年から2013年の広島県、岐阜県、島根県において、「富有」の満開日からカキノヘタムシガ第1世代幼虫による芽の食入開始までの期間は4~16日で、「富有」の満開日からカキノヘタムシガ第1世代幼虫による果実の食入開始までの期間は11~26日である。したがって、「富有」の満開10日後頃はカキノヘタムシガ第1世代幼虫による芽の被害の発生後であるが、果実食入前に相当し、防除に最適な時期と判断できる(図1)。
  • 「富有」の満開10日後の防除により、カキノヘタムシガ第1世代幼虫による被害果率は0~15.6%となり、殺虫剤無散布の被害果率17.2~43.5%と比べて有意に抑えることができる(図2)。一方、果実の食入開始後である満開20日後の防除では被害果率は殺虫剤無散布と差が認められなくなる(図2)。成虫の発生状況や幼虫による芽の食被害発生時期の調査に基づいた適期防除における被害果率は0~13.0%と同程度であることから(データ略)、「富有」の満開10日後は生育状況の早晩によらない防除適期の簡易指標として有効と考えられる。

普及のための参考情報

  • 普及対象:「富有」生産県防除担当者
  • 普及予定地域・普及予定面積・普及台数等:現時点で全国のカキ栽培面積の約18%を占める地域(岐阜県、奈良県、神奈川県)の防除指針において本成果が活用されている。
  • 本成果は各都府県の防除指針に掲載されている薬剤に対して適用できる。
  • その他:満開日とは開花率が80%に達した日である。

具体的データ

表1 「富有」の満開日からカキノヘタムシガ第1世代幼虫の食入初期までの期間,図1 カキノヘタムシガ第1世代幼虫による「富有」被害果率
図中の同一文字間に有意差はなし(χ2検定、5%水準)
防除薬剤は岐阜県:アラニカルブ水和剤1,000倍、
広島県2012年:フェニトロチオン水和剤1,000倍、
島根県2012年:アセフェート水和剤1,000倍、2013年:アセタミプリド水溶剤2,000倍

その他

  • 予算区分: その他外部資金(発生予察)
  • 研究期間: 2010~2013年度
  • 研究担当者:
    新井朋徳、杖田浩二(岐阜県農技センター)、奈良井祐隆(島根県農技センター)、澤村信生(島根県農技センター)、外山晶敏、土`田聡
  • 発表論文等:
    新井ら(2016)応動昆、60(3):119-129