リンゴ台木の挿し木発根性を選抜するDNAマーカー

要約

リンゴ台木の育種において、挿し木発根性に対して主働的に寄与するQTLに連鎖するDNAマーカーMdo.chr17.5の遺伝子型を指標として、休眠枝挿しによる発根に優れた個体を選抜できる。

  • キーワード:台木育種、休眠枝挿し、JM台木、QTL解析、マーカー選抜
  • 担当:果樹茶業研究部門・リンゴ研究領域・リンゴ品種育成ユニット
  • 代表連絡先:電話 029-838-6453
  • 分類:研究成果情報

背景・ねらい

リンゴ台木は栄養繁殖によって増殖されている。その際、取り木や二重接ぎ木といった方法では準備や管理作業に通年での労力が必要となるのに対して、休眠枝挿しは省力的であることから、挿し木発根性を備えた台木品種の育成が求められている。しかしながら、リンゴ台木の挿し木発根性に関する遺伝的な知見は乏しいため、交雑育種においては、養成した交雑実生集団の全個体に対して発根性を検定する必要がある。さらに、検定試験に必要な数の挿し穂を得るには播種後数年間の育苗が必要となる。このように、現状では挿し木発根性を備えた台木の育成には長期間にわたり多大な労力を要する。そこで、優れた発根性を示す個体の選抜を容易に行うために、挿し木発根性に優れる「JM7」と極めて劣る「サナシ63」のF1集団を供試したQTL解析を行って挿し木発根性に関与するQTLを同定し、これに連鎖するDNAマーカーを開発する。

成果の内容・特徴

  • 圃場および人工気象機の異なる環境条件下において、挿し木発根性に主働的に寄与するQTLが第17染色体上に検出され、その近傍には新たに開発したSSRマーカーMdo.chr17.5が座乗する(図1)。
  • Mdo.chr17.5で増幅される227bpのアリルは、本QTLの発根を促進するアリルと相引に連鎖している(データ省略)。人工気象室内での挿し木試験において、Mdo.chr17.5の227bpを有する個体は、そうでは無い個体に対して発根率が2.0倍、および発根量が1.5倍多い(図2)。
  • Mdo.chr17.5を指標として本QTLの発根を促進するアリルの遺伝を調べたところ、発根を促進するアリルはマルバカイドウの一系統「盛岡セイシ」に由来するものであり、全てのJM台木はこのアリルを保有していると考えられる(図3)。

成果の活用面・留意点

  • 少なくとも「JM7」を母本とする交雑実生集団において、Mdo.chr17.5をマーカーとして利用することで、休眠枝挿しによる発根に優れた個体のマーカー選抜が可能である。
  • 上記マーカー選抜はQTLの間接的な選抜であるため、QTLとマーカー間に組換えが起きうることに留意する。
  • 本QTLの発根を促進するアリルを保有する個体であっても発根性の程度には差が認められるため、マーカー選抜した個体に対しても発根性を検定し、表現型が目標に到達しているかどうか確認することが望ましい。
  • SSRマーカーMdo.chr17.5の検出にはDNAシーケンサーを用いる必要がある。

具体的データ

図1 挿し木発根性に主働的に寄与するQTLの座乗位置?図2 主働QTLの発根を促進するアリルの有無による発根率と発根量との関係?図3 SSRマーカーMdo.chr17.5の対立遺伝子型を指標として見た主働QTLの遺伝

その他

  • 予算区分:交付金
  • 研究期間:2011~2016年度
  • 研究担当者:森谷茂樹、岩波宏、土師岳、岡田和馬、山田昌彦(日本大)、山本俊哉、阿部和幸
  • 発表論文等:Moriya S. et al.(2015)Tree Genet. Genomes 11:59