冬季の窒素施肥によってニホンナシの開花率が低下する
要約
冬季に窒素肥料を施用するとニホンナシの開花率が低下する。多くの施肥基準では冬季に基肥を施用する施肥体系になっており、施肥基準を見直す必要がある。
- キーワード:窒素肥料、施肥時期、ニホンナシ、発芽不良
- 担当:果樹茶業研究部門・生産・流通研究領域・園地環境ユニット
- 代表連絡先:電話 029-838-6453
- 分類:研究成果情報
背景・ねらい
ニホンナシ栽培では基肥を11月から翌年2月までに施用することが多い。休眠期に肥料を与えても樹体にはほとんど吸収されず、降水による肥料成分の溶脱が懸念される。近年、九州等でニホンナシの発芽不良が問題となっており地球温暖化の影響と考えられているが、家畜排せつ物法の施行(1999年)以降、特に窒素成分の増加した家畜ふん堆肥を施用することが発芽不良を助長している可能性がある。冬季の窒素施肥は肥料の無駄になるばかりでなく樹体にも影響することが懸念されるため、冬季の窒素施肥がニホンナシの開花におよぼす影響について明らかにする。
成果の内容・特徴
- ポット栽培において、主要な窒素肥料である硫安や尿素を冬季に施用すると、ニホンナシ「幸水」の開花率は低下し、芽が枯死する場合もあるが、4月の施肥ではその影響は少ない(図1、写真1)。
- 尿素の施肥量を樹当り3、5、10、20、30gNの5段階(3gNは3kg/10a相当)で「幸水」の開花率を比較すると、施肥量の違いによる明確な差はなく、少量の施肥量であっても冬季の施肥は開花率に影響する(図2)。
- 冬季の窒素施肥による開花率の低下は「幸水」だけでなく「あきづき」や「王秋」でも確認でき、ニホンナシ全般的に見られる現象である(図3)。
- 肥料成分の溶出が温度に依存する被覆尿素では、冬季における窒素溶出が少ないが、窒素無施肥に比べると開花率は低下する傾向にある(図3)。
- 以上より、施肥時期が冬季であれば、窒素の施用法に関わらず開花率の低下を回避することは困難である。
成果の活用面・留意点
- 本成果はポット栽培による結果であり、一般的なニホンナシの栽培圃場における冬季の窒素施肥による影響は本成果ほど顕著ではない。
- 地下水位が高い、土壌硬度が高いあるいは若木等で根域が浅いと考えられる場合には肥料の影響を受けやすく、冬季の窒素施肥による影響が現れやすいことが考えられる。多くの施肥基準では冬季に基肥を施用するように設定されているため、現行の施肥体系について見直す必要がある。
- 他の研究により(井上ら、2013)、冬季から春季に基肥を変更しても、樹体生育、収量、果実品質に影響がないことが明らかである。
具体的データ
その他
- 予算区分:交付金
- 研究期間:2012～2016年度
- 研究担当者:井上博道、草塲新之助、阪本大輔
- 発表論文等:井上ら(2016)土肥誌、87(4):250-253