ニホンナシ「幸水」の果実肥大はGA4とPCaの組合せ処理で促進される
要約
ニホンナシ「幸水」では、ジベレリン(GA)の不活化阻害活性を持つプロヘキサジオンカルシウム(PCa)とGA4を主成分とする剤を混用して果梗に処理すると、果肉のGA4含量が増加し果実肥大が促進される。しかしGA3を主成分とするGA剤では効果が低い。
- キーワード:ニホンナシ、植物成長調節剤、ジベレリン、ジベレリン生合成阻害剤、果実肥大
- 担当:果樹茶部門・生産・流通研究領域・栽培生理ユニット
- 代表連絡先:電話 029-838-6453
- 分類:研究成果情報
背景・ねらい
国産果実の主要輸出先である東アジア諸国では贈答用として大玉な果実の需要が大きく、効果的な果実肥大促進技術が求められている。わが国ではニホンナシの成熟期および果実肥大の促進剤としてGA3+4の混合剤が農薬登録されているが、早生の主要品種「幸水」では効果が低い。
植物ではジベレリン(GA)の主要な活性型はGA1およびGA4で、それらの1,2位二重結合型であるGA3およびGA7も同様に生理活性が高い。ニホンナシではこのうちGA4 とGA7の効果が高い(Ito et al., 2000)。一方プロヘキサジオンカルシウム(PCa)はGAの前駆体から活性型合成まで(GA12からGA4およびGA53からGA1)、および活性型の不活性化(GA4からGA34およびGA1からGA8)の両方の段階を抑制する(図1)。このため活性型GAをPCaとともに果実へ処理すると、PCaによるGA不活性化阻害作用により処理した活性型GAの含量が高く保たれ、GA単用処理よりも強い果実肥大効果をもたらすことが期待される。そこでGAによる果実肥大促進効果を増強する狙いで、PCaとGAの混用剤を供試し、「幸水」に対する果実肥大促進効果を明らかにする。
成果の内容・特徴
- GA塗布剤(GA3とGA4を約9:1混合で2.7%(w/w)含有)20~30mgを「幸水」果梗に単用で塗布処理すると、無処理に比較して収穫期が早まりかつ収穫時の果実重が増加する場合(2008年)もあるが、収穫期のみ前進し、果実重には影響が認められない場合(2007年)もある(表1)。またGA塗布剤にPCa剤(有効成分1%含有)を等量混用して40~60mgを「幸水」果梗に処理しても果実肥大は促進されない(表1)。
- GA4+7剤(GA4とGA7の約2:1混合)を2.7%(w/w)濃度でラノリンペーストに混和し塗布剤と同様に処理すると、単用処理でも収穫期が前進して果実肥大が促進されやすくなり、PCaとの混用によりさらに効果が高まる(表2)。
- ナシの活性型GAであるGA4の果肉における処理1週間後の含量は、GA4+7剤処理によって無処理区より増加する傾向であり、PCaとの混用処理によって約2倍に増加する(表3)。またGA4の不活性型代謝産物であるGA34含量はGA4+7剤処理によって増加し、その程度はPCaとの混用処理では低い。一方、GA塗布剤処理は処理4週間後のGA3含量を増加させるが、GA4およびGA34含量には影響しない。
- 以上より、「幸水」ではGA4+7剤処理により果肉のGA4含量が増加し、果実肥大も促進されるが、GA塗布剤ではPCaとの混用の有無にかかわらずGA4含量が増加せず、果実肥大も促進されない。PCaはGA4の不活性化を抑制してGA4含量を高く維持しており、それにより果実肥大効果を高めていると考えられる。
成果の活用面・留意点
- 市販のGA塗布剤とPCaとの混用処理は「豊水」、「おさゴールド」などでは果実肥大を促進するため、ナシを対象に果実肥大促進剤として農薬登録されている。
- ニホンナシにおいてはGAに対する感受性に品種間差があり、「幸水」に対してはGA塗布剤に含まれるGA4含量が低く、果実肥大が誘導されないものと考えられる。
具体的データ

その他
- 予算区分:競争的資金(農食事業)
- 研究期間:2007~2009年度
- 研究担当者:伊東明子、阪本大輔、板井章浩(京都府大)、西島隆明、大久保直美、中村ゆり、森口卓哉、中島育子
- 発表論文等:Ito A. et al. (2016) Hort. J. 85(3):201-208