ウンシュウミカンの雄性不稔性は花粉数の減少を要因として後代に遺伝する

要約

ウンシュウミカンの雄性不稔性は花粉充実度が低下することではなく、1葯あたりの花粉数が減少することにより引き起こされる。花粉数を減少させる遺伝的な要因は細胞質ではなく核側にあり、その雄性不稔性は交雑した後代に高い遺伝率で遺伝する。

  • キーワード:ウンシュウミカン、雄性不稔性、花粉数、花粉充実度、遺伝率
  • 担当:果樹茶業研究部門・カンキツ研究領域・カンキツゲノムユニット
  • 代表連絡先:電話 029-838-6453
  • 分類:研究成果情報

背景・ねらい

ウンシュウミカンは葯の発育不良による強い雄性不稔性を有し、その後代では「清見」などの雄性不稔性を備えたものが複数出現している。無核性品種育成を目的に、これまで雄性不稔性を持つこれら品種を親とする交配が行われてきているが、その効率的育成を実現するためにDNAマーカーを利用した早期選抜技術の開発が期待されている。カンキツの雄性不稔性に関しては核と細胞質の相互作用を原因とするモデルが提唱されているが、葯の形態観察や、細胞質側にのみ着目した研究が中心で、花粉数や花粉充実度との関係や、核側の遺伝性については十分に解明されていない。そこで本研究では雄性不稔性の連鎖マーカー開発を目標に、まず花粉数と花粉充実度から雄性不稔性を定量的に評価するとともに、複数の交雑集団を用いてその遺伝性を明らかにする。

成果の内容・特徴

  • 主要なカンキツ11品種の1葯あたり花粉数と染色法による花粉充実度を2年間、定量的に評価した結果、従来から雄性不稔性とされていたウンシュウミカンとその後代品種「清見」、「はれひめ」、「興津46号」では花粉充実度よりも1葯あたりの花粉数が顕著に減少していたことから、ウンシュウミカンでは花粉数の減少が雄性不稔性発現の主たる要因であることが示唆される(図1)。
  • 1葯あたりの花粉数は3つのウンシュウミカン後代交雑集団(ヒュウガナツ×「興津56号」、「興津46号」×「興津56号」、「興津46号」×「カラ」)では集団内で分離するとともに、集団間でも大きく異なり、「興津46号」×「興津56号」、「興津46号」×「カラ」における集団平均値はヒュウガナツ×「興津56号」よりも低い(図2左)。
  • 一方で花粉充実度は集団内で分離するが、集団平均値は80%前後で推移しており(図2右)、雄性不稔性の付与には花粉充実度よりも1葯あたりの花粉数に注目することが育種上重要であると示唆される。
  • 雄性不稔性には細胞質が関与すると考えられており、種子親の細胞質が後代に遺伝する。1葯あたりの花粉数はウンシュウミカンと同じ細胞質を有する「興津46号」×「興津56号」と「興津46号」×「カラ」の2集団では0.8以上の広義の遺伝率を示し、ウンシュウミカン由来の核側因子による花粉数の制御を強く示唆するが、細胞質の異なるヒュウガナツ×「興津56号」集団では0.086と低く、この核側因子の発現にはウンシュウミカン型の細胞質が必要であることを示唆する(表1)。
  • 3集団における花粉充実度の広義の遺伝率は0.7以上となり、集団間で顕著な違いは認められない(表1)。

成果の活用面・留意点

  • ウンシュウミカン型雄性不稔性の詳細な解析と早期選抜DNAマーカー開発に利用することができる。
  • 細胞質遺伝子型がウンシュウミカンの雄性不稔性発現に影響すると推定されることから、評価に際しては細胞質遺伝子型との組合せを考慮することが必要である。

具体的データ

図1 主要カンキツ11品種の1葯あたりの花粉数(左)と花粉充実度(右)の差異?図2 3交雑集団における1葯あたりの花粉数(左)と花粉充実度(右)の分布?表1 3交雑集団における1葯あたりの花粉数と花粉充実度の広義の遺伝率

その他

  • 予算区分:交付金
  • 研究期間:2014~2016年度
  • 研究担当者:後藤新悟、吉岡照高、太田智、喜多正幸、浜田宏子、清水徳朗
  • 発表論文等:Goto S. et al. (2016) PLoS ONE 11(9): e0162408
    doi:10.1371/journal.pone.0162408