チャの生葉の低温保管による夏茶臭改善効果の解明

要約

夏茶には硬葉臭と異なる不快な夏茶臭があり、メトキシピラジンが主要因成分である。チャの生葉を低温保管すると、不快な夏茶臭が改善される。これは、生葉の低温保管により香気寄与成分が増加し、夏茶臭をマスクするためである。

  • キーワード:夏茶臭、低温保管、香気寄与成分、香気エキス希釈分析、GC-O
  • 担当:果樹茶業研究部門・茶業研究領域・茶品質機能性ユニット
  • 代表連絡先:電話 029-838-6453
  • 分類:研究成果情報

背景・ねらい

夏茶は夏場に製造され、硬葉臭と異なる不快な夏茶臭がある。これまで、夏場に温度14°Cから19°Cの低温下でチャの生葉を保管すると揮発性成分の発生とともに、不快な夏茶臭が軽減することが明らかにされている。しかし、なぜ夏茶臭が改善されるのか、明らかにされていない。夏茶臭が改善される機構が明らかになれば、低温保管技術の普及が進むともに、夏茶臭の客観的評価が可能になる。そこで、夏茶臭とそれが改善された夏茶の香りをガスクロマトグラフィー?匂い嗅ぎ装置(GC-O)を用いた香気エキス希釈分析により解析し、チャの生葉の低温保管による夏茶臭改善効果を明らかにする。

成果の内容・特徴

  • 香気エキス希釈分析の結果、夏茶臭に寄与する成分は(Z)-1,5-octadien-3-one(金属様)、2-ispropyl-3-methoxypyrazine (2-IPMP)(土臭い)、2-isobutyl-3-methoxypyrazine (2-IBMP)(土臭い)、3-methylnonane-2,4-dione(グリーン)、(E,Z)-2,6-nonadienal(グリーン)、furaneol(甘い)である。
  • メトキシピラジンである2-IPMPと2-IBMP(図1)の夏茶以外の茶へのFlavor dilution factor(FDファクター)は低い(2014年普及成果情報、2015年研究成果情報)。夏茶に2-IPMPと2-IBMPの混合溶液Aを夏茶に添加すると夏茶臭が強まるため(表1)、夏茶臭の主要因成分はメトキシピラジンである。
  • チャの生葉の低温保管により、夏茶臭は改善されるがメトキシピラジンである2-IPMPと2-IBMPのFDファクターは変化しない(表1)。
  • チャの生葉を低温保管すると、linalool(花様)、β?-damascenone(甘い)、3-mercapto-1-hexanol(果実様)、(E)-4,5-epoxy-(E)-2-decenal(甘い)、bis (2-methyl-3-furyl) disulfide(肉様)、(Z)-methyljasmonate(花様)、indole(不快臭)のFDファクターが高くなる(表1)。
  • チャの生葉の低温保管でFDファクターが高くなる上記7成分の混合溶液Bを夏茶に添加する。添加によって夏茶臭が改善されるとともに、フローラルな香調が強まる。以上から、チャの生葉の低温保管により、7成分が増加し、夏茶臭をマスクすることで、夏茶臭が改善される。

成果の活用面・留意点

  • 香気エキス希釈分析法とは、香気エキスを数段階に希釈してGC-O分析し、匂い嗅ぎ測定者によって感じられる最大の希釈倍率をFDファクターとして求める方法である。FDファクターが高い成分は薄めても感じられることから、匂いの構築に対して寄与度が高い成分と考えられる。
  • 本研究においては、夏茶臭改善のために、17°C室温下で生葉コンテナ(300K、カワサキ機工)に「やぶきた」の生葉を入れ、最初の1時間は送風量18m3min-1、その後3時間9 m3min-1一定とした後、荒茶を製造する。
  • 平成25~27年度農林水産業・食品産業科学技術研究推進事業実用技術開発ステージ(課題番号25061C)「夏茶の付加価値向上のための新たな生葉保管と製茶技術の確立」において得られた成果である。

具体的データ

図1 夏茶臭の主要因成分であるメトキシピラジン?表1 夏茶臭の主要因成分であるメトキシピラジンおよびチャの生葉の低温保管によりFDファクターが高くなる香気寄与成分とそれらの混合溶液を夏茶に添加した時の香調

その他

  • 予算区分:競争的資金(農食事業)
  • 研究期間:2013~2015年度
  • 研究担当者:水上裕造、崎原敏博(鹿児島県農総セ)、内村浩二(鹿児島県農総セ)、遠矢聡志(鹿児島県農総セ)、飛松諒(鹿児島県農総セ)
  • 発表論文等:
    1)水上裕造ら(2013)夏茶に含まれる香気寄与成分、茶研報、117:27-33
    2)水上裕造ら(2015)生葉の低温保管による夏茶臭改善効果の解明、茶研報、119:21-28