ビワの品種別寒害発生気温
要約
主産県における春季のビワ幼果の生存率と年最低気温との間には強い相関があり、その回帰式から、主力品種の寒害発生気温は、「田中」が-5.0°C、「茂木」が-4.1°C、「なつたより」が-3.4°C、「長崎早生」が-2.9°Cである。
- キーワード:生存率、適地、年最低気温、幼果
- 担当:果樹茶業研究部門・生産・流通研究領域・園地環境ユニット
- 代表連絡先:電話 029-838-6453
- 分類:研究成果情報
背景・ねらい
温暖化の進行に伴い、暖地果樹であるビワの生産拡大が期待されている。ビワはわが国で栽培される主要な果樹では、唯一、秋冬期に開花し、厳冬期に幼果が存在するため、寒害が多発する。このため、寒害発生の有無が栽培適地を決めているとともに、栽培品種も寒害発生程度に応じて選択されている。しかしながら、これまで寒害発生温度の品種間差は、必ずしも定量的に評価されていなかった。そこで、新規開園する場所や新規に栽植する品種の選択を合理的に実施可能にするため、主産地における品種別の寒害発生状況を総合的に解析し、品種別寒害発生温度を明らかにする。
成果の内容・特徴
- ビワの幼果は寒害が発生すると種子が黒く変色し、凍死と判断される(図1)。ビワ主産県の長崎県、千葉県、香川県、鹿児島県の圃場における2008~2016年の3月中旬時点の幼果の生存率は、その年の年最低気温(1月~3月上旬の日最低気温の最小値)と有意な相関が認められる(図2)。
- 生存率が80%未満になると寒害発生と仮定した場合の寒害発生気温を、年最低気温と生存率の直線回帰(図2)から推定すると表1のようになる。主力品種のうち、寒害に強いとされる「田中」は-5.0°C、弱いとされる「長崎早生」は-2.9°Cで寒害が発生すると推定できる。
- 年最低気温と生存率との関係(図2)には、ばらつきがあるため、回帰式の95%信頼区間の上限温度を、より安全な基準として用いることができる(表1)。また80%以外の生存率を基準にする場合は、生存率を求める回帰式(表1)から寒害発生気温を算出できる。
- 気温に関するメッシュデータと組み合わせれば、品種別適地マップも作成できる(図3)。ビワの現在の産地分布はこのマップと矛盾しない。
成果の活用面・留意点
- アメダス等の近隣の気象観測値を調べることにより、新規にビワを栽植する場合の適地判定や、品種更新する場合の選択肢を得ることができる。
- 果樹の栽培指針に関する行政文書に結果を反映させることができる。
- 気候変化シナリオと組み合わせることで、気候変動によるビワ栽培適地拡大のシミュレーションに活用できる。
- 本研究は農水省の農林水産業・食品産業科学技術研究推進事業(26100C)を活用して実施したものである。
具体的データ
その他
- 予算区分:競争的資金(農食事業)
- 研究期間:2014~2016年度
- 研究担当者:杉浦俊彦、谷本恵美子(長崎農技セ果樹・茶部門)、橋口浩子(長崎農技セ果樹・茶部門)、稗圃直史(長崎県県央振興局)、蔦木康徳(千葉農総研セ暖地園研)、山田英尚(香川農試府中果樹研)、熊本修(鹿児島農開セ果樹部)、阪本大輔、紺野祥平
- 発表論文等:Sugiura T. et al. (2016) Hort. J. 85(2):122-127