果樹園での草生管理または堆肥の施用は清耕管理より土壌炭素を増加させる

要約

果樹園の地表面を清耕状態で管理し続けるよりも、草生で被覆して管理、または化学肥料単用よりも堆肥を併用し続ける方が、土壌表層0~20cmの炭素蓄積に有効である。

  • キーワード:土壌炭素、果樹園、清耕、草生、堆肥
  • 担当:果樹茶業研究部門・ブドウ・カキ研究領域・栽培生理ユニット
  • 代表連絡先:電話 029-838-6453
  • 分類:研究成果情報

背景・ねらい

温室効果ガスのひとつである大気中の二酸化炭素由来の有機物を農耕地に貯留できれば、温暖化の緩和に寄与できる。果樹は一度植付けると長期間栽培され、また果樹園の多くは不耕起で管理されるため、土壌の攪乱が少なく、土壌への炭素蓄積が期待されている。しかし、果樹園においてどの土壌管理法がより土壌炭素蓄積に効果的か不明である。そこで、気候、土壌および樹種が異なる果樹園で共通の土壌管理(表面を裸地状態に維持し、化学肥料のみ施用する清耕区;地表面を草生で覆い、化学肥料のみを施用する草生区;地表面を裸地状態に維持し、化学肥料の他に堆肥を地表面に施用する堆肥区)を約10年間継続して土壌表層0~20cmの炭素含量を比較することにより、果樹園において土壌炭素蓄積に有効な土壌管理法を明らかにする。

成果の内容・特徴

  • 試験はつくば市、山梨市および大村市で実施し、それぞれの地点における栽培樹種、緯度、経度、標高、試験期間中の年平均気温ならびに年降水量は表1のとおりである。また草生区の草生は、つくばではオーチャードグラス、山梨と大村では雑草草生であり、草生による有機物供給量は表2のとおりである。堆肥区の堆肥は、つくばでは牛ふんおよびバーク堆肥(それぞれ30Mg ha-1)、山梨では牛ふん堆肥(20~40Mg ha-1)、大村ではバーク堆肥(30Mg ha-1)であり、堆肥による有機物供給量は表2のとおりである。
  • 果樹園の地表面を清耕で管理し続けると、土壌炭素濃度はほとんど変化しないか、やや減少する傾向があるが(図1左、表2)、草生で管理し続けると、土壌炭素濃度はやや増加するか、ほとんど変化しない(図1中、表1)。
  • 果樹園に牛ふんまたはバーク堆肥を施用すると、すべての地点で有意に土壌炭素濃度は増加する(図1右、表2)。
  • 土壌炭素量の年変化率は10年以上同様な管理を続けると、清耕区では-1.71~0.37 Mg C ha-1 y-1、草生区では-0.41~0.72Mg C ha-1 y-1、堆肥区では0.92~3.04Mg C ha-1 y-1で変化する(表2)。
  • 土壌炭素量の年変化率における草生区および堆肥区と清耕区の差はそれぞれ0.35~1.30Mg C ha-1 y-1および1.47~2.67Mg C ha-1 y-1と何れも正の値となり、その差は草生区より堆肥区で大きくなる(表2)。
  • 以上より、果樹園において炭素蓄積には清耕区<草生区<堆肥区の順の栽培管理法により効果的である。

成果の活用面・留意点

  • 10年間の有機物連用による収量や果実品質に有意な差は無い。
  • 草生管理により下草が天敵類の温存場所となる一方で、幼木期に樹と下草が養水分競合する場合があり、樹幹周辺部は清耕管理またマルチをするなどの注意が必要である。
  • 堆肥の施用により施肥効果も期待できる一方で、土壌pHが上昇するなど土壌の理化学性の変化に注意が必要である。
  • 本試験は約10年間、有機物を連用した試験結果であり、有機物の連用を10年以上継続すると土壌炭素濃度が直線的に変化するか未確認である。今後はさらに長期間有機物を連用した時の土壌炭素濃度の変化を明らかにする予定である。

具体的データ

表1 試験地の概要?図1 10年以上有機物を連用した果樹園における土壌炭素濃度の経年変化?表2 果樹園における10年以上の有機物連用が土壌炭素濃度および土壌炭素量の年変化率並びにΔSOCに及ぼす影響

その他

  • 予算区分:委託プロ(温暖化適応・異常気象対応)
  • 研究期間:2010~2016年度
  • 研究担当者:杉浦裕義、井上博道、古川忠(長崎県農技セ)、加藤治(山梨県果樹試)、手塚誉裕(山梨県果樹試)、古屋栄(山梨県果樹試)
  • 発表論文等:Sugiura H. et al. (2017) J. Agric. Meteorol. 73(2) 印刷中