ハウス栽培の中晩生カンキツ「せとか」に発生する生理障害「果実軟化症」

要約

ハウス栽培の中晩生カンキツ「せとか」は、収穫期に軟化した果実が約3%発生する。その果汁は低糖高酸のため商品価値は低い。発生様式は、果盤部(ヘタ)の篩部に蓄積した多糖類の一種が、果実への光合成産物の移行を阻害することが要因と考えられる。

  • キーワード:中晩生カンキツ「せとか」、低品質果実、カロース
  • 担当:果樹茶業研究部門・カンキツ研究領域・カンキツ栽培生理ユニット
  • 代表連絡先:電話029-838-6453
  • 分類:研究成果情報

背景・ねらい

中晩生カンキツ「せとか」は、おもにハウス栽培において、低糖高酸で、やや軟化した果実が一定程度生産される。ハウス栽培の「せとか」は、高級果実として1個単位で販売されるケースが多く、このような低品質の果実は、消費者からのクレームの対象となっている。そこで、本研究ではこの障害を「果実軟化症」と称し(以下、軟化症)、その特徴と発生様式の解明を行う。また、軟化症の果実の出荷を防ぐための対策を検討する。

成果の内容・特徴

  • 収穫期の軟化症果の品質は、正常果に比べてやや小玉で、果皮色は黄色を呈し、果皮は薄い。果面はなめらかで果実は軟らかい特徴がある。正常果に比べ果汁のBrixは約3割低く、酸は約4割高い。着色期にあたる収穫2か月前の果実は、着色が遅い傾向にある(表1、図1)。
  • 果汁内成分の詳細について、糖を構成する果糖、ブドウ糖、ショ糖はいずれも低く、特に主要な糖であるショ糖は、約7割低い(表1)。また、構成されるほぼ全てのアミノ酸の含量は低く、全アミノ酸の総量は約3割低い。
  • 着果部位別の発生率は、内なりで特に高く、約12%である。そのほかの部位は、1~4%の発生率で、平均すると約3%である。
  • 軟化症の果実は、炭素の安定同位体を用いた実験により、葉で作られた光合成産物が果梗(果実の軸)から果実へ移行していないこと(図2)、また、顕微鏡観察により、果盤部(果実のヘタ)で、多糖類の一種のカロース(β-1,3-グルカン)が篩部に蓄積していること(図3)が確認されている。これらのことから、カロースが、篩部を閉塞することで、果実への光合成産物の転流を阻害し、品質低下につながると考えられる。
  • 軟化症の果実の出荷を防ぐ方法は、摘果時に内なりの果実を極力落とすことと、収穫約2か月前の着色期に着色が遅い小玉な果実を摘果することである。また、収穫あるいは家庭選果時に、外観が正常な果実に比べて黄色みを呈した小玉でやや軟化した果実を排除することである。光センサーを導入した共同選果場を利用できる場合は、糖度の低い果実を排除することも有効である。

成果の活用面・留意点

  • ハウス栽培の「せとか」に比べて発生割合は低いものの、露地栽培の「せとか」、温州ミカン、「不知火」、「西南のひかり」および「津之輝」においても同様の症状を確認している。
  • カロースの蓄積が軽微な場合、果実品質はやや低く、外観からの判別は難しい。
  • 本症状は、その特徴から地域によって「コンニャク症」と呼ばれることや、ある程度減酸の進んだ果実は「味なし果」と呼ばれている。

具体的データ

表1 成熟ステージ別の正常果と軟化症果の果実品質,図1 「果実軟化症」の外観,図2 13C光合成産物の器官別濃度,図3 果盤部(横断面)に蓄積したカロース 発光部(赤い楕円の中):カロース,X:木部,Ca:形成層,P:篩部,Pf:篩部繊維,C:皮層

その他

  • 予算区分:交付金
  • 研究期間:2009~2016年度
  • 研究担当者:岩崎光徳、安部伸一郎(愛媛県農林水産部)、深町浩
  • 発表論文等:岩崎ら(2018)園芸学研究、17:185-190