リンゴ果皮の赤色の濃さおよび着色面積の識別に有効なDNAマーカー

要約

リンゴ果皮の赤色を担う色素であるアントシアニンの生合成を制御する遺伝子MdMYB1の近傍から設計したDNAマーカーMdo.chr9.4を用いることにより、リンゴ果皮の赤色の濃さおよび着色面積についての早期選抜ができる。

  • キーワード:アントシアニン、転写因子、ゲノムワイド連関解析、MdMYB1、マーカー選抜
  • 担当:果樹茶業研究部門・リンゴ研究領域・リンゴ育種ユニット
  • 代表連絡先:電話029-838-6453
  • 分類:研究成果情報

背景・ねらい

リンゴ果実の外観は消費者の購買意欲を大きく左右することから、果実の商品性を決定する主要因の一つである。近年の気候変動により、品種によっては従来のような果皮着色が得られにくいことが問題となっていることから、着色に優れ外観の良い新品種が求められている。そこで、本研究では、果皮の着色についての遺伝解析を行い、赤色の濃さおよび着色面積を識別可能なDNAマーカーを開発する。

成果の内容・特徴

  • リンゴ160品種・系統の1~25年分の調査記録を用いて、果皮の赤色の濃さ(果皮色強度)と着色割合(いずれも5段階評価。1品種あたり平均7.1年)について、年次変動を補正した各品種・系統ごとの遺伝子型値を求めると、両者の間には強い正の相関が観察される(表1、図1)。
  • 果皮色強度と着色割合を乗算して総合着色程度とし、これについてゲノムワイド連関解析を行うと、総合着色程度を制御する染色体領域として、リンゴ果皮の赤色を担う色素アントシアニンの生合成経路を制御する転写因子の一種MdMYB1が座乗する第9染色体の1領域のみに有意な関連が認められる(図2)。この領域の総合着色程度の表現型分散への寄与率は52%である(データ略)。
  • MdMYB1の8.3kb下流に存在する3塩基(ATT)単純反復配列はSSRマーカーMdo.chr9.4として利用でき、上記の品種からは、増幅長が異なる4種類の対立遺伝子(R0、Y-3、Y-9、Y-15)が検出される(表1)。対立遺伝子Mdo.chr9.4-R0をヘテロまたはホモで保有する品種・系統は果皮が赤色を呈する。
  • Mdo.chr9.4-R0ホモ型の品種・系統はヘテロ型よりも総合着色程度の値が有意に大きく、着色能力が高いと判断されることから、Mdo.chr9.4は果皮の赤色の濃さおよび着色面積について同時に早期選抜を行うDNAマーカーとして利用できる(図3)。

成果の活用面・留意点

  • 早期選抜の場面において、鋳型とするゲノムDNAを塩化カリウムとEDTAを含むトリス塩酸緩衝液によって粗抽出してPCRに用いても、Mdo.chr9.4の増幅は良好である。
  • MdMYB1はType1の赤果肉形質を制御する遺伝子MdMYB10と対立遺伝子の関係にあるとされるが、本研究ではMdMYB10を保有する品種を供試していないため、MdMYB10を保有する品種にMdo.chr9.4を適用する際は本成果情報に記載されていない増幅長の対立遺伝子が現れる可能性がある。
  • 当該形質についての既存のDNAマーカーでは、遺伝子型と果皮色との間に矛盾が生じる品種が知られていたが、Mdo.chr9.4ではこのような矛盾は認められていない。
  • Mdo.chr9.4の検出にはDNAシーケンサーによるフラグメント解析が必要である。

具体的データ

表1 代表的なリンゴ品種における果皮色関連形質とDNAマーカーMdo.chr9.4の対立遺伝子型との関係,図1 リンゴ160品種・系統における果皮色強度と果皮着色割合との関係,図2 総合着色強度についてのゲノムワイド連関解析,図3 Mdo.chr9.4の遺伝子型を基準として分類したリンゴ160品種・系統の総合着色程度の分布

その他

  • 予算区分:交付金、委託プロ(次世代ゲノム)
  • 研究期間:2013~2018年度
  • 研究担当者:森谷茂樹、國久美由紀、岡田和馬、清水拓、本多親子(東京大)、山本俊哉、Hélène Muranty(INRA)、Caroline Denancé(INRA)、片寄裕一、岩田洋佳(東京大)、阿部和幸
  • 発表論文等:Moriya S. et al. (2017) Euphytica 213:78