植物病原細菌Dickeya dadantiiによるリンゴ急性衰弱症

要約

数年生のリンゴ樹が地際付近から褐色の樹液を漏出し急激に枯死するリンゴ急性衰弱症は、植物病原細菌Dickeya dadantiiによって引き起こされる病害である。

  • キーワード:リンゴ、果樹急性枯死症状、Dickeya dadantii
  • 担当:果樹茶業研究部門・生産・流通研究領域・病害ユニット
  • 代表連絡先:電話029-838-6453
  • 分類:研究成果情報

背景・ねらい

2014年頃から岩手県の一部で、梅雨時期から盛夏期にかけて、数年生のリンゴ樹が地際付近から褐色の樹液漏出を伴って急激に樹勢を衰弱させ枯死するリンゴ急性衰弱症と呼ばれる症状が散見されている(図1)。本症状が病原体による病害であるか、栽培環境等のストレスによる生理障害であるか明らかとなっていない。そこで、発症樹より病原体の分離を行い、分離される場合には病原体の同定、健全植物への接種による原病徴の再現及び病原体の再分離を行う。

成果の内容・特徴

  • リンゴ急性衰弱症発症樹の罹患部では、アルコール臭を伴う組織の褐変や軟化が認められ病原体の存在が強く示唆され、この罹患部より細菌が分離される。
  • 分離した細菌の懸濁液をリンゴの水挿し枝に付傷接種すると、褐色の樹液の漏出を伴う枝の枯死が認められる。また、1、2年生のリンゴ苗木の根を切断し細菌懸濁液に浸漬すると接種1週間後に葉の萎凋や根部の壊死を伴う枯死を引き起こす(図2)。接種樹の地上部からは接種菌と同じ細菌が分離される。これらはコッホの原則(病原体の分離、接種による原病徴の再現、病原体の再分離)を満たすため、当該の細菌がリンゴ急性衰弱症を引き起こす病原菌であることがわかる。
  • 当該の細菌は、電子顕微鏡観察(図3)、生化学試験(コロニー形態観察、糖・アミノ酸代謝試験等)、植物体試験(ジャガイモ軟腐試験、タバコ過敏感反応試験等)及び遺伝子による系統解析に基づき、植物病原細菌Dickeya dadantiiであると同定できる。
  • Dickeya dadantiiは野菜や花き類に軟腐症状を引き起こす植物病原細菌として知られているが、リンゴに病害を引き起こすことは世界で初めての報告である。また、Dickeya dadantiiは、リンゴ急性衰弱症だけでなく、ナシさび色胴枯病及びモモ急性枯死症を引き起こす病原菌である可能性が高い。

成果の活用面・留意点

  • 果樹の急性枯死症状に関する基礎情報として利用できる。
  • 本成果によってリンゴ急性衰弱症は病害であることが明らかとなっており、現在、関係機関と病名について検討しているところである(例.リンゴ立枯細菌病)。
  • 国内リンゴ生産地域や他の樹種生産地域で発生している急性枯死症状について、本研究成果情報に則った試験を実施することで細菌性病害であるか異なる原因によるものか判別できる。また、細菌性病害であるか否かを判別することによって、具体的な診断や被害軽減対策を講じることが可能となる。

具体的データ

図1 リンゴ急性衰弱症,図2 リンゴ急性衰弱症の再現,図3 リンゴ急性衰弱症を引き起こすDickeya dadantii

その他

  • 予算区分:交付金
  • 研究期間:2015~2018年度
  • 研究担当者:藤川貴史、大田将禎、佐々木真人(岩手農研セ)、中村太紀(岩手農研セ)、岩波徹
  • 発表論文等:Fujikawa T. et al. (2019) J. Gen. Plant Pathol. 85:314-319