ニホンナシ成熟果実の糖成分および全糖含量のQTLの同定

要約

ニホンナシ成熟果実の主要な糖の含量を、育種実生集団においてQTL解析すると、スクロースからフルクトースとグルコースの代謝に関わるQTLが第1連鎖群と第7連鎖群に、全糖含量のQTLが第11連鎖群に同定される。

  • キーワード:DNAマーカー、スクロース、フルクトース、液胞型インベルターゼ
  • 担当:果樹茶業研究部門・品種育成研究領域・ナシ・クリ育種ユニット
  • 代表連絡先:電話029-838-6453
  • 分類:研究成果情報

背景・ねらい

果樹において甘さは果実品質を決定する上で最も重要な指標である。バラ科果樹はソルビトールを転流糖とし、果実の成熟過程で様々な酵素による代謝を経て、成熟果実においてはスクロース、フルクトース、グルコース、ソルビトールの4種類の主要な糖が蓄積する(図1)。これらは甘味度が異なり、スクロースに対して、フルクトースは1.50~1.75倍、グルコースは0.70~0.80倍、ソルビトールは0.55-0.70倍の甘さが感じられることが報告されている。農研機構のニホンナシ育種では、全糖含量が高く、かつ甘味度の高いスクロースやフルクトースの比率が高い品種の育成を目指している。そこで、本研究では交雑実生集団の成熟果実中の糖成分と全糖含量を測定し、高含有化に関わるゲノム領域をQTL解析で明らかにする。

成果の内容・特徴

  • 「あきづき」と極早生の母本373-55(「筑水」×筑波43号)の交雑から得られた交雑実生の各糖成分および全糖含量の個体間変異は、スクロースで非常に大きく、その他の糖成分と全糖含量では小さい(図2)。スクロース含量は、フルクトース含量とグルコース含量と強い負の相関を示し(r =−0.83および−0.84、表1)、フルクトース含量とグルコース含量には正の相関が認められる(r =0.67、表1)。これらは、成熟果実の液胞に蓄積されたスクロースの一部がフルクトースとグルコースへ代謝されること(図1)と符合する。
  • 第1連鎖群にスクロース、グルコース、ソルビトールで有意なQTL、第7連鎖群にスクロースおよびフルクトースで有意なQTLが検出され、これらの糖成分のQTL寄与率は18.5-26.6%を示す(表2)。いずれのQTLにおいても、スクロースが減少する遺伝子型ではフルクトースとグルコースが増加する効果がみられる(データ略)。また、第1連鎖群と第7連鎖群のQTLの近傍には、スクロースをフルクトースとグルコースに分解する働きのある液胞型インベルターゼ遺伝子PPAIV3PPAIV1がそれぞれマッピングされることから、これらの遺伝子が成熟果実の糖組成の制御に関わることが期待される。
  • 全糖含量を制御する1つのQTLが第11連鎖群に検出される。ニホンナシでは他に第4、8連鎖群に全糖含量を制御するQTLが報告されているが、本QTLはニホンナシにおいて新規の報告となる。

成果の活用面・留意点

  • 同定された3つのQTLは「あきづき」と373-55の交雑組み合わせで検出されたものであり、異なる実生集団や品種については有効性を検証する必要がある。
  • 糖代謝に関わる2つのQTLは、スクロースを甘味度の高いフルクトースと甘味度の低いグルコースに代謝するQTLのため、甘味度には大きな影響がないことが推定される。
  • 本研究で得られたQTLは高糖含量および甘味度の高い糖を蓄積する品種の育成において、基礎的な知見となる。

具体的データ

図1 バラ科果樹の果実における糖代謝経路,図2 「あきづき」と373-55とその交雑実生の糖成分と全糖含量の遺伝的変異,表1 「あきづき」と373-55の実生集団における各糖および全糖含量の相関関係,表2 「あきづき」と373-55における糖成分と全糖のQTLの効果

その他

  • 予算区分:交付金
  • 研究期間:2015~2018年度
  • 研究担当者:西尾聡悟、齋藤寿広、寺上伸吾、髙田教臣、加藤秀憲、板井章浩(京都府大)、山本俊哉
  • 発表論文等:Nishio S.et al. (2018) Plant Mol. Biol. Rptr. 36:643-652