「Chimarrita」、「Coral」はモモせん孔細菌病抵抗性の有望な育種素材である

要約

ブラジルからの導入品種「Chimarrita」、「Coral」およびその後代系統は、「もちづき」および「つきかがみ」よりもせん孔細菌病に対する拡大抵抗性の強い実生を高頻度で獲得するための交雑親として有効である。

  • キーワード:モモ、せん孔細菌病、抵抗性育種、付傷接種法、拡大抵抗性
  • 担当:果樹茶業研究部門・品種育成研究領域・核果類育種ユニット
  • 代表連絡先:電話029-838-6453
  • 分類:研究成果情報

背景・ねらい

せん孔細菌病は、防除困難なモモの重要病害であり、抵抗性品種の育成が望まれている。抵抗性育種を効率的に進めるためには、抵抗性の育種素材と遺伝様式の解明が重要である。せん孔細菌病に対するモモ品種・系統の付傷接種法による評価により、「Chimarrita」、「もちづき」および「つきかがみ」は比較的拡大抵抗性が強く、育種素材として有望と考えられる(2013年度研究成果情報)。本研究は、せん孔細菌病抵抗性育種を進めるのに有効な知見を得るため、モモ育種実生集団のせん孔細菌病抵抗性を評価することにより、抵抗性の遺伝様式を明らかにする。

成果の内容・特徴

  • 27組合せ514個体からなる交雑実生集団およびその交雑親28品種・系統のせん孔細菌病菌Xanthomonas arboricola pv. pruni(MAFF301420)に対する拡大抵抗性を付傷接種法により評価する。ブラジルからの導入品種(「Chimarrita」および「Coral」)またはその後代系統に由来する組合せにおいては、病斑長変換値の家系平均は、抵抗性の強い(病斑長変換値が0.5程度)交雑親とは有意に異ならず抵抗性の弱い交雑親とは有意に異なる(表1)。一方、「もちづき」、「つきかがみ」を用いた組合せにおいてはそのような傾向は見られない(表1)。このことから、モモにおけるせん孔細菌病に対する拡大抵抗性の遺伝には、ブラジルから導入された「Chimarrita」、「Coral」およびその後代実生に由来する抵抗性を優性(顕性)とする質的遺伝と日本の品種・系統間の交雑組合せで見られる量的遺伝の存在が示唆される。
  • 病斑長変換値が小さい「Chimarrita」、「Coral」およびその後代実生を交雑親に用いた交雑組合せからは、「もちづき」、「つきかがみ」を用いるよりも、高頻度で拡大抵抗性の強い実生個体を獲得できる(図1、2)。

成果の活用面・留意点

  • 付傷接種法によってせん孔細菌病に対する拡大抵抗性が強いことが明らかになった「Chimarrita」および「Coral」はせん孔細菌病抵抗性育種の抵抗性交雑親として利用できる。
  • せん孔細菌病に対する抵抗性は侵入抵抗性と拡大抵抗性が知られており、新梢に対する付傷接種法は拡大抵抗性を評価するものである。
  • 「Chimarrita」および「Coral」の果実は、酸味の多さや肉の粗さ、青臭さのために、わが国における生食用経済栽培には適さない。また、主要品種との交雑から得られる第一世代実生では、十分な果実品質の向上は見られないため、数世代の交雑によって果実品質を向上させる必要がある。

具体的データ

表1 ブラジルからの導入品種(「Chimarrita」および「Coral」)またはその後代系統に由来する組合せと「もちづき」、「つきかがみ」を用いた組合せにおける交雑親、平均親と家系平均の病斑長変換値,図1 「Chimarrira」を交雑親に用いた実生集団(組合せ番号404:346-23×「Chimarrita」)の病斑長変換値による家系内実生分布(実線は種子親、破線は花粉親の値を示す),図2 「もちづき」を交雑親に用いた実生集団(組合せ番号397:「もちづき」×「つきあかり」)(右)の病斑長変換値による家系内実生分布(実線は種子親、破線は花粉親の値を示す)

その他

  • 予算区分:交付金
  • 研究期間:2006~2018年度
  • 研究担当者:末貞佑子、山田昌彦(日本大)、澤村豊、安達栄介(山形県庁)、八重垣英明、山口正己(東京農大)、山本俊哉
  • 発表論文等:Suesada Y. et al. (2019) Breed. Sci. 69:11-18 doi:10.1270/jsbbs.18077