クリ幼木では晩秋から冬季の窒素施肥によって翌春に芽が枯死する危険性がある

要約

晩秋から冬季の窒素施肥によってクリ幼木では芽の枯死が発生する。多くの施肥基準では晩秋から冬季に基肥を施用する施肥体系になっているが、凍害発生が懸念される場合は晩秋から冬季の窒素施肥を避けるべきである。

  • キーワード:窒素肥料、施肥時期、クリ、凍害
  • 担当:果樹茶業研究部門・生産・流通研究領域・園地環境ユニット
  • 代表連絡先:電話029-838-6453
  • 分類:研究成果情報

背景・ねらい

クリでは基肥を11月から翌年3月までに施用することが多いが、休眠期に肥料を与えてもクリの肥料吸収は期待できない。同じ落葉果樹であるニホンナシでは、冬季の窒素施肥により発芽不良の発生が助長されることが示されており、この発生要因は凍害と考えられている。近年、幼木での凍害発生が多いクリにおいても施肥方法と凍害発生の関連性が示唆されることから、施肥方法がクリの発芽等に及ぼす影響を明らかにする。

成果の内容・特徴

  • ポット栽培において、窒素肥料(硫酸アンモニウム)を晩秋から冬季に施用するとクリ幼木で枯死芽が発生し、ひどい場合には樹が枯死する(図1)。
  • 1月区と2月区の枯死芽率を窒素施肥量で比較すると、窒素施肥量が多いほどクリの枯死芽率が増加するわけではない。ただし、11月区と12月区では施肥量が多いと枯死芽率が高いことから、窒素施肥量が多い場合、枯死芽の危険性がある施肥時期が11月から3月までの長期にわたると考える(図1)。
  • 日向と日陰に設置したポット樹を比較すると、冬季の窒素施肥によって日向の樹は日陰樹より発芽や展葉の遅れ、枯死芽が多くなる(写真1、図2)。これは、クリの凍害発生が日当たりの良い園地で多いことと類似する。
  • 窒素肥料(尿素)では枯死芽が発生するがリン肥料(過リン酸石灰)やカリウム肥料(硫酸カリウム)では枯死芽が発生しないことから(図2)、肥料3要素では窒素成分のみが枯死芽発生に関与する。
  • 枯死芽が発生した樹や枯死樹では枝切り口からの樹液漏出、枝の発酵臭が観察され、これらの症状はクリ栽培園地の凍害と同様の症状である。以上のことから、晩秋から冬季の窒素施肥によってクリに凍害が発生したと考える。

成果の活用面・留意点

  • 本成果はポット栽培による結果であり、一般的なクリの栽培圃場において冬季の窒素施肥による発芽への影響は本成果と同程度になるとは限らない。
  • クリ凍害の危険度判定指標と対策技術マニュアル(2014)(http://www.naro.affrc.go.jp/publicity_report/publication/pamphlet/tech-pamph/054889.html)では窒素施肥に関する情報は示されていないため、本成果はクリ凍害防止に関する追加情報となる。

具体的データ

図1 異なる窒素施肥時期におけるクリ「ぽろたん」の枯死芽率,図2 異なる肥料種におけるクリ「ぽろたん」の枯死芽率,写真1 クリ「ぽろたん」の展葉状況

その他

  • 予算区分:交付金、競争的資金(イノベ創出強化)
  • 研究期間:2012~2018年度
  • 研究担当者:井上博道、草塲新之助、阪本大輔
  • 発表論文等:井上ら(2019)土肥誌、90(1):55-60