ウメ「南高」に発生する葉縁えそ病の原因と被害実態

要約

ウメ「南高」に発生する葉縁えそ病(早期落葉や不完全花の発生を伴う)発症樹からは、アンペロウイルス属の2種のウイルスが高頻度で検出され、病原と推定される。発症樹においては、着果数の減少や果実の小型化も伴うため、収穫量は大きく減少する。

  • キーワード:ウメ、葉縁えそ病、不完全花、PBNSPaV、LChV-2
  • 担当:果樹茶業研究部門・生産・流通研究領域・病害ユニット
  • 代表連絡先:電話029-838-6453
  • 分類:研究成果情報

背景・ねらい

和歌山県のウメ「南高」において、雌しべや雄しべの奇形を生じる不完全花を伴う葉縁えそ病(和歌山県では'茶がす症'と呼称)が発生して問題となっている。本病は、80~90年代の研究によりウイルス病であることが示唆されているが、病原は特定されていない。そこで、本研究では現地発生園において本症状の発症と関連の深いウイルスを特定するとともに、保毒樹の調査や健全苗木の供給にも利用可能なウイルスの検出法を開発する。また、現地発生園において、これらウイルスの保毒が果実形質や収量に及ぼす影響を明らかにする。

成果の内容・特徴

  • 不完全花(図1)の発生を伴う葉縁えそ病を発症するウメ「南高」からアンペロウイルス属のplum bark necrosis and stem pitting-associated virus(PBNSPaV)およびlittle cherry virus 2(LChV-2)が高頻度で検出される(表1)。
  • PBNSPaVは、新規プライマーを使用することにより、既報プライマーを使用した場合よりもRT-PCR法により安定した検出が可能である。
  • これらのウイルスを保毒する樹では、保毒しない樹に比べて不完全花の発生が多く、着果率が低い。また、どちらか片方のウイルスを保毒する樹よりも、両方保毒する樹の方がその症状はより顕著である(図2)。
  • いずれかのウイルスを保毒する樹に由来する果実は、ウイルスを保毒しない樹に由来する果実と比較して、果実径、果実重および核(種子)重が小さくなる傾向があり、特にLChV-2保毒樹において果実重は顕著に軽い(表2)。このため、着果率の低下と相まって、収穫量は大きく減少する。

成果の活用面・留意点

  • 2種ウイルスは病原として強く疑われるものの、戻し接種ができていないため、学術的には病原未確定である。
  • 「南高」以外のウメ品種におけるウイルス保毒状況や被害実態は不明である。なお、海外の報告によれば、LChV-2は接ぎ木以外にコナカイガラムシ類で媒介されることが報告されているものの、PBNSPaVについては接ぎ木以外の伝染様式は不明である。
  • ウメの苗木生産に使用する穂木等についてウイルス検定を実施することで、健全な苗木の供給が可能となる。ウイルス検定法の詳細は、発表論文(Numaguchi K. et al. 2018)を参照。

具体的データ

図1 ウメ「南高」に発生する不完全花 上:不完全花、下:健全花,表1 不完全花の発生とウイルス保毒状況の関係,図2 ウメ「南高」の不完全花率および着果率に及ぼすPBNSPaVおよびLChV-2の影響,表2 ウメ「南高」の果実径および果実重に及ぼすPBNSPaVおよびLChV-2の影響

その他

  • 予算区分:交付金
  • 研究期間:2016~2018年度
  • 研究担当者:中畝良二、長岡(中園)栄子、藤川貴史、沼口孝司(和歌山県果樹試うめ研)、武田知明(和歌山県果樹試)、土田靖久(和歌山県果樹試うめ研)
  • 発表論文等:
    • Nakaune R. et al.(2018)J. Gen. Plant Pathol. 84:202-207
    • Numaguchi K. et al.(2019)J. Gen. Plant Pathol. 85:116-121