ブドウべと病抵抗性に関与する葉裏の毛じ密度を減少させる遺伝子座

要約

ブドウべと病抵抗性を付与する葉裏の毛じ密度を著しく減少させる遺伝子座が、欧州ブドウ「マスカット・オブ・アレキサンドリア」に見出され、同様の効果を持つアレルが由来の異なる欧州ブドウ「パルケント」、「カッタクルガン」にも存在する。

  • キーワード:ブドウべと病、毛じ、圃場抵抗性、QTL、欧州ブドウ
  • 担当:果樹茶業研究部門・ブドウ・カキ研究領域・ブドウ・カキ育種ユニット
  • 代表連絡先:電話029-838-6453
  • 分類:研究成果情報

背景・ねらい

ブドウべと病は葉、花穂、幼果を侵す雨媒伝染性の主要病害であり、国内外を問わず生育期に雨量の多い地域で問題となる。べと病菌感染時には、水中に放出されたべと病菌遊走子がブドウ葉裏にある気孔や水孔といった自然開口部から進入するため、KortekampとZyprian(1999)は葉裏に密生する毛じの撥水性によりべと病感染が阻害されることを報告している。そこで、べと病抵抗性と葉裏の毛じ密度の関係について、国内生食用ブドウ育種の主要な親品種である「マスカット・オブ・アレキサンドリア」と「キャンベル・アーリー」の後代からなる集団等を用いて葉裏の毛じ密度がべと病抵抗性に与える効果を確認するとともに、葉裏の毛じ密度を制御する遺伝子座を明らかにするためのQTL解析を行う。

成果の内容・特徴

  • べと病発病葉率を葉裏の毛じ密度達観評価値で回帰した決定係数は「マスカット・オブ・アレキサンドリア」×「キャンベル・アーリー」に由来する実生集団(集団AC)で0.67であり、葉裏の毛じ密度が高くなることで発病が抑制される傾向がある(図1)。
  • 集団ACを用いたQTL解析の結果、殺菌剤無散布条件下でのべと病発病葉率の平均値(3年間)および葉裏の毛じ密度達観調査スコア平均値(2年間)のいずれに関しても「マスカット・オブ・アレキサンドリア」第5連鎖群由来の同一の遺伝子座がQTLとして検出される(図2A)。べと病発病葉率3年平均値の寄与率は49%、葉裏の毛じ密度形質の寄与率は79%と高い。
  • 葉裏の毛じ密度低下アレルを保有する個体群は、保有しない群と比較して発病葉率が1.24倍となる(図2B)。
  • 実生集団626-84×育82(集団693)および700-39×「シャインマスカット」(集団777)においても集団ACと同じ第5連鎖群の同一の領域が葉裏の毛じ密度に関与している(図2C-E)。QTL解析でLOD値の最も高かったSSRマーカーNifts5-50363には3つの集団間で多型があり、葉裏の毛じ密度に低下に関与するアレルサイズは集団ACおよび集団777では212bp、集団693では201bpである(図2C-E)。
  • 毛じ密度を低下させるアレルの祖先品種は、欧州ブドウ「マスカット・オブ・アレキサンドリア」、「パルケント」、「カッタクルガン」である(図3)。

成果の活用面・留意点

  • 葉裏の毛じ密度QTL近傍のSSRマーカーは、べと病抵抗性のDNAマーカーとして利用できる。ただし、連鎖マーカーでありQTLとマーカー間に組換えが起こりうることから、確率は低いものの、望ましくない形質を有する個体が選抜される可能性がある。
  • 葉裏の毛じ密度は本QTL以外にも複数のQTLが関与すると考えられるが、本QTLの葉裏の毛じ密度低下型アレル保有個体は、複数の集団で毛じが著しく減少することが示されており、他のQTLよりも遺伝的に上位で優性の効果を有することが示唆される。
  • 本抵抗性はべと病菌感染以前にすでに植物体に備えられている静的抵抗性であり、その機構から抵抗性の打破が起こりにくいことが期待される。

具体的データ

図1 集団ACにおける発病葉率の葉裏の毛じ密度達観評価スコア平均値による回帰,図2 葉裏の毛じ密度とべと病発病葉率に関連する第5連鎖群のQTL解析結果とその効果,図3 葉裏の毛じ密度低下アレルの由来

その他

  • 予算区分:委託プロ(次世代ゲノム)
  • 研究期間:2013~2017年度
  • 研究担当者:河野淳、伴雄介、三谷宣仁、藤井浩、佐藤修正(東北大学院生命科学研究科)、須崎浩一、東暁史、尾上典之、佐藤明彦
  • 発表論文等:Kono A. et al. (2018) Mol. Breed. 38(11):138