天然型アブシジン酸含有新規液剤散布処理でブドウ「ピオーネ」の果皮着色が向上

要約

植物生育調整剤として登録が予定される天然型アブシジン酸10%を含む液剤200倍水溶液をブドウ「ピオーネ」の着色始期に果房へ満遍なく散布することにより、収穫期の果実着色を向上させる。また、果面の汚れ、果粉の溶脱および裂果は認められない。

  • キーワード:ブドウ、天然型アブシジン酸、S-ABA、植物生育調整剤、着色向上
  • 担当:果樹茶業研究部門・ブドウ・カキ研究領域・ブドウ・カキ栽培生理ユニット
  • 代表連絡先:電話029-838-6453
  • 分類:研究成果情報

背景・ねらい

ブドウ「ピオーネ」などの紫黒色系散光着色品種は、気候の温暖化で成熟期に着色に不適な高温に遭遇するようになり、着色が不十分で成熟しても品種本来の色調にならない着色不良が問題となっている。着色不良果は低級品として扱われ、安定生産の阻害要因となっており、その対策は急務である。着色不良対策として、枝幹への環状剝皮処理は有効だが、着色向上効果が不安定で、また剝皮部分への害虫の侵食などにより樹が衰弱する場合があり、普及の妨げとなっている。一方、アブシジン酸(以下、ABA)処理によるブドウの着色向上効果は知られているが、粉剤の処理では果面が汚れる、また展着剤の混用処理では果粉が溶脱するなどの問題がある。近年、光学・立体異性体が存在するABAの中で着色向上効果が優れる天然型ABA(以下、S-ABA)を含む液剤が海外において実用化され、着色不良対策として、我が国でも本液剤の利用が望まれている。そこで、S-ABA含有新規液剤(以下、S-ABA剤)の単用処理が「ピオーネ」の着色等の果実品質に及ぼす影響を調査し、本剤の効果の特徴を明らかにする。

成果の内容・特徴

  • 露地栽培および雨除けハウス栽培において、S-ABA10%を含む液剤を200倍に希釈した水溶液(S-ABA 500ppm相当)をハンドスプレーで着色始期のピオーネ果房へ滴らない程度(1房当たり約6.1ml~10ml)に満遍なく散布処理すると、収穫期の果実着色(果皮色のカラーチャート値)が向上する(表1、図1)。
  • S-ABA剤処理による着色向上効果は、処理1~2週間後には確認され、収穫まで維持される(データ略)。
  • S-ABA剤処理による着色向上効果は、作型によって異なるが、処理後から収穫までの平均気温が低いほど高い(図2)。
  • S-ABA剤処理により、収穫期の果実品質は、着色の向上の他、酸含量が低下するが、果実重などその他の果実品質には影響がない(表1)。そのため、糖酸比も向上する。また、果面の汚れや果粉の溶脱、裂果は確認されない(図1)。

成果の活用面・留意点

  • S-ABA剤は植物生育調整剤として、農薬登録が予定されている。
  • ブドウへのS-ABA剤散布処理による着色向上効果は、「ピオーネ」の他、同じ紫黒色系四倍体品種である「巨峰」においても公設試験場所によって認められている。その他の品種における着色向上効果は確認が必要である。
  • 既報より、S-ABAの着色向上効果は、着色始期以前、特に果粒軟化前の処理で低く、着色始期以降では、収穫期に近づくほど低くなると想定される。
  • S-ABA剤散布は果房のみで、有袋栽培では散布する前に除袋する必要がある。枝葉を含めた樹体への散布処理の影響は確認が必要である。
  • S-ABA剤を果房へ大量に散布処理しても、余分な薬液は果房から弾かれ無駄になる。また、果粉の溶脱が懸念される。

具体的データ

表1 露地栽培(上)および雨除けハウス栽培(下)「ピオーネ」の着色始期におけるS-ABA剤処理が果実品質に及ぼす影響,図1 S-ABA剤散布処理および無処理の果房(左:処理、右:無処理),図2 露地および雨除けハウス栽培「ピオーネ」の着色始期におけるS-ABA剤処理と無処理間の果皮色の差と処理日から収穫日までの平均気温との関係

その他

  • 予算区分:交付金、その他外部資金(受託試験)
  • 研究期間:2014~2017年度
  • 研究担当者:杉浦裕義、東暁史、西村遼太郎、山﨑安津、薬師寺博
  • 発表論文等:杉浦ら(2019)園学研、18(1):81-87