チャトゲコナジラミの天敵寄生蜂シルベストリコバチの累代飼育法と生態特性

要約

侵入害虫チャトゲコナジラミの天敵寄生蜂シルベストリコバチは、カンキツ実生に寄生させたミカントゲコナジラミを餌に累代飼育ができる。我が国に生息するシルベストリコバチに生態特性(雌雄の羽化パターン)が明瞭に異なる二型がいる。

  • キーワード:シルベストリコバチ、累代飼育、生態的特性、カンキツ実生、チャトゲコナジラミ
  • 担当:果樹茶業研究部門・茶業研究領域・茶病害虫ユニット
  • 代表連絡先:電話0547-45-4105
  • 分類:研究成果情報

背景・ねらい

チャの侵入害虫であるチャトゲコナジラミには、有力天敵シルベストリコバチが知られる。本寄生蜂は、カンキツ害虫であるミカントゲコナジラミの防除を目的として中国から導入され、既に日本各地の柑橘園に定着しているが(タイプI)、近年、茶園には遺伝的に異なる別系統(タイプII)が分布することが明らかとなった。タイプIIは、チャトゲコナジラミの侵入に随伴して偶然移入し、日本各地の茶園に分布を拡大中と考えられ、さらにタイプIも一部の地域の茶園で確認されているが、それらの生態的特性は不明である。本種を天敵として有効に活用するためには、これら2系統の生理・生態特性の比較や両者の相互作用の解析等が不可欠であるが、永年性作物害虫の天敵であり世代時間も長い本寄生蜂の飼育法は確立されていない。そこで、室内環境下での本寄性蜂の累代飼育法や飼育試験法を開発し、本種2系統の生態的特性を比較する。

成果の内容・特徴

  • 本研究で新たに考案したカンキツ実生とミカントゲコナジラミを用いたシルベストリコバチの室内飼育法を図1、図2に示す。本法は、チャ苗木とチャトゲコナジラミを用いた従来の室内飼育法(タイプIIが対象)や、カンキツ苗木とミカントゲコナジラミを用いた温室下での大量飼育法(タイプIが対象)に比べ、より安定的な累代飼育が可能である。なお、実生を作成するカンキツは、種子の入手が比較的容易で、ミカントゲコナジラミの増殖に好適な甘夏(ナツダイダイ)やユズが良好である。
  • 本法は、世代期間が長い本寄性蜂の生活史により適合し、両系統の生態的特性を詳細に比較できる飼育法である。本法で飼育した次世代個体数は、タイプIの方がタイプIIよりも多い(図3)。カンキツ実生とミカントゲコナジラミを用いて天敵の大量飼育、放飼を行う際には、タイプIがより優れている可能性がある。
  • 本寄生蜂のタイプI・タイプIIは、次世代雄雌の羽化消長が明瞭に異なる。タイプIは雌の羽化ピークの後に雄の羽化ピークが来るが、タイプIIは雄雌の羽化ピークがほぼ同時に来る(図4)。大量飼育時には繁殖生態の異なる別系統のコンタミネーションを避けることが重要である。

成果の活用面・留意点

  • 購入苗木は本寄生蜂に悪影響を及ぼす農薬が残留しているリスクがあり、また、ハダニやカイガラムシ等が多発しやすいため、飼育試験には適さない。本法ではカンキツ実生を用い、室内環境下で飼育試験を行うため、これらの問題を解決し、2系統の生態的特性を詳細に比較できる。
  • カンキツ実生であっても、温室環境下ではハダニ等が多発しやすいため、本法は隔離された室内制御環境下で実施する。また、ミカントゲコナジラミやシルベストリコバチは微小なため、これらの接種には、パスツールピペット等を取り付けた吸虫管を用いるのが好ましい。
  • 本法を活用・応用することで、チャ園に放飼する本寄生蜂の飼育が可能になる。天敵の増殖利用においては、特定農薬(特定防除資材)として指定された天敵の留意事項通知を遵守する。
  • チャトゲコナジラミと本寄生蜂2系統との関係については本法だけでは解析できない。チャトゲコナジラミを餌とした寄生蜂の飼育法とこれを通じた室内研究が必要である。

具体的データ

図1 シルベストリコバチ累代飼育法の手順(23℃、15L9D条件下),図2 シルベストリコバチの累代飼育(72×72×200mm、上部にメッシュ付き通気口),図3 シルベストリコバチ2系統の次世代数 1雌1雄導入後60日間の総羽化数(23℃、15L9D) 中央値と四分位値を箱ひげで示し、丸印は外れ値を示す,図4 シルベストリコバチ2系統の羽化消長(23℃、15L9D)

その他

  • 予算区分:交付金、その他外部資金(27補正「先導プロ」)
  • 研究期間:2013~2018年度
  • 研究担当者:屋良佳緒利、下田武志、佐藤安志
  • 発表論文等:屋良ら(2017)応動昆、61(2):131-134