イチジク株枯病抵抗性台木の新品種「励広台1号」

要約

「励広台1号」は、イチジクとイヌビワの種間雑種であり、イチジク株枯病に真性抵抗性である。休眠枝や緑枝挿し木によって容易に繁殖でき、「桝井ドーフィン」および「蓬莱柿」との接ぎ木親和性は高い。

  • キーワード:イチジク株枯病、抵抗性台木、種間雑種、挿し木、接ぎ木親和性
  • 担当:果樹茶業研究部門・ブドウ・カキ研究領域・ブドウ・カキ栽培生理ユニット
  • 代表連絡先:
  • 分類:普及成果情報

背景・ねらい

イチジクにおいて最も深刻な病害が株枯病(病原糸状菌:Ceratocystis ficicola)である。本病は1981年に愛知県で確認された後、現在ではほぼ全国の産地で被害が報告されている。主に土壌伝染し、罹病樹は葉の萎凋後、最終的に枯死する。客土せず再植した場合、土壌中に厚膜胞子が残存しているため、数年後に再発する。防除法として農薬の土壌潅注、客土があるが、費用と労力面で課題が多い。「キバル」を含めた抵抗性台木が利用されているが、圃場抵抗性のため台木からの感染は避けられない。イチジク属野生種イヌビワ(Ficus erecta)は株枯病に真性抵抗性であるが、イチジクとは接ぎ木不親和のため台木として利用できない。2004年にイヌビワとイチジクの交配に成功し、種間交雑体(F1)得た(2012年度成果情報)。しかし、F1は生育が不良なため、台木への活用ができなかった。そこで、F1にイチジクの戻し交雑を実施して、実生(BC1)を獲得した。このBC1実生群からイチジクの主要品種である「桝井ドーフィン」および「蓬莱柿」に適した株枯病抵抗性台木を育成する。

成果の内容・特徴

  • 「励広台1号」は、農研機構果樹研究所ブドウ・カキ研究領域(現 農研機構果樹茶業研究部門ブドウ・カキ研究領域)において、2014年にF1(FEBN7-1(イチジク「ボルディード・ネーグラ」×イヌビワ)を花粉親、イチジク「ネグロ・ラルゴ」を種子親に交配したBC1(戻し交雑第1世代)実生群から選抜した株枯病抵抗性系統の一つである。
  • 「励広台1号」は、主幹部への株枯病菌の有傷接種に対して病斑の拡大がほとんどなく、イヌビワと同程度の"極めて強い抵抗性"を示す(表1、図1)。
  • 病原菌を土壌に混和した土壌接種においても「励広台1号」の挿し木苗木は、イヌビワと同様に株枯病は発病せず、"極めて強い抵抗性"を示す(表2)。
  • 「励広台1号」は、発根促進剤を使用しなくても休眠枝挿し木(表3)および緑枝挿し木ともに高い発根能力を有し、挿し木苗木の生育も良好である。
  • 「桝井ドーフィン」および「蓬莱柿」ともに「励広台1号」と高い接ぎ木親和性を示し、癒合部の活着も強固である(データ略)。

普及のための参考情報

  • 普及対象:イチジク生産者。
  • 普及予定地域・普及予定面積・普及台数等:イチジク産地の100ha。
  • その他:苗木の販売は2022年の秋季より開始予定。

具体的データ

表1 株枯病菌の有傷接種に対する累積枯死率の推移,表2 株枯病菌の土壌接種に対する累積枯死率の推移,図1 挿し木苗木に対する株枯病菌の有傷接種(接種1か月後),表3 「励広台1号」の挿し木発根性

その他

  • 予算区分:交付金、イノベ創出強化事業(イチジク抵抗性台木)
  • 研究期間:2014~2020年度
  • 研究担当者:
    藥師寺博、山﨑安津、軸丸祥大(広島総研農技セ)、森田剛成(広島総研農技セ)、星野滋(広島総研農技セ)、須川瞬(広島総研農技セ)、白上典彦(広島総研農技セ)、浜名洋司(広島総研農技セ)
  • 発表論文等:
    • 藥師寺ら「励広台1号」品種登録出願公表第34378号(2020年3月11日)
    • 森田ら(2021)日植病報. 87: 76-79.