リンゴ斑点落葉病の罹病性原因遺伝子Altを識別できるDNAマーカー

要約

リンゴ斑点落葉病の罹病性原因遺伝子Altに特異的な多型を検出できるプライマーを用いたPCRによりAltの有無を判別できる。本手法により、罹病性個体の効率的な淘汰が可能となり、抵抗性品種育成が促進される。

  • キーワード:病害抵抗性、マーカー選抜、育種、PCR、アガロースゲル電気泳動
  • 担当:果樹茶業研究部門・リンゴ研究領域・リンゴ育種ユニット
  • 代表連絡先:
  • 分類:研究成果情報

背景・ねらい

わが国のリンゴ栽培において、リンゴ斑点落葉病は防除を要する最重要病害である。リンゴ品種「デリシャス」とその枝変わりである「スターキングデリシャス」等や、「印度」を祖先品種とするものに罹病性品種が多く認められる。現在のリンゴ育種においても、これらの罹病性品種が交雑親として利用されることが多い。斑点落葉病は、罹病性を引き起こす原因遺伝子Altによって抵抗性/罹病性が制御されており、罹病性が抵抗性に対して優性に遺伝する。すなわち、罹病性品種(Alt/alt)と抵抗性品種(alt/alt)の交雑で得られた後代からは、約半数の個体が罹病性を示す。また、胞子接種による幼苗検定では、菌株や苗の状態などの要因によって結果が安定しないことがある。そこで、罹病性個体を効率的に淘汰するため、定性的にAltの有無を調べられるDNAマーカーを開発する。

成果の内容・特徴

  • Alt候補領域の塩基配列を解読したところ、病害抵抗性遺伝子様の機能が推定されるA8翻訳領域の5'側非翻訳領域に、Altを有する罹病性品種に特有の15bpの欠失と12bpの挿入多型が認められる(図1)。
  • 上記の多型は、3種類のプライマーAlt-F、Alt-R、Alt-specificを用いたPCRの増幅産物をアガロースゲル電気泳動することによって、約200bpの増幅産物として検出および判別が可能である(表1、図2、図3)。

成果の活用面・留意点

  • 本DNAマーカーは、「デリシャス」および「印度」を祖先に持つ罹病性品種・系統に対して適用可能であり、罹病性の起源が異なる品種・系統(例:「王林」)には適用できない。
  • DNAマーカー選抜時には、PCRおよびアガロースゲル電気泳動の結果、約200bpの増幅産物が検出された個体を淘汰する。

具体的データ

図1 Alt座乗領域中に存在する病害抵抗性遺伝子様の翻訳領域(A8)の5´側非翻訳領域において、特異的に認められる挿入・欠失多型。,表1 Altを検出するためのプライマーセット,図2 Altを検出するためのPCR条件。,図3 Alt特有の多型から得られたPCR増幅産物のアガロースゲル電気泳動による検出。

その他

  • 予算区分:交付金
  • 研究期間:2015~2020年度
  • 研究担当者:
    森谷茂樹、寺上伸吾、岡田和馬、清水拓、足立嘉彦、片寄裕一、藤澤弘子、呉建忠、金森裕之、山本俊哉、阿部和幸
  • 発表論文等:Moriya S. et al. (2019) BMC Plant Biol. 19:132