リンゴ果皮クロロフィル含量の非破壊評価法

要約

携帯型分光計を用い、リンゴの果皮表面から波長域650~740 nmの散乱光の反射率を測定することで、果皮のクロロフィル含量を迅速かつ高精度に測定できる。収穫適期の指標となる地色やデンプン指数を評価でき、リンゴの非破壊熟度判定に活用できる可能性がある。

  • キーワード:リンゴ、地色、デンプン指数、果皮のクロロフィル含量、非破壊
  • 担当:果樹茶業研究部門・リンゴ研究領域・リンゴ栽培生理ユニット
  • 代表連絡先:
  • 分類:研究成果情報

背景・ねらい

リンゴ(Malus×domestica Borkh.)の収穫時期の判定は、カラーチャートによる表面色や地色だけでなく、満開後日数、デンプン指数等いくつかの品質項目も合わせて総合的に行われる。果皮の着色が早期に進む良着色品種では、目視では地色が確認できず表面色のみで判断を行うと未熟な状態での収穫になる可能性があることや、近年黄色品種の中でも、台湾をはじめとした輸出先でも人気の高い「トキ」は収穫時期の判断が難しいことから、品質のばらつきが見られ、評判を落とす要因となっている。そのような中ニホンナシでは、樹上で携帯型分光計を用い、果皮のクロロフィル含量および地色を迅速かつ高精度に測定できることを明らかにしている。そこで、本研究では収穫後のリンゴ果実を用いてニホンナシと同様の方法によって、高精度で簡易に果皮のクロロフィル含量が計測できることや、これまで目視では判別しづらかった地色を簡便に評価する方法を明らかにするのと同時に、クロロフィル含量と成熟の指標として用いられているデンプン指数との関連性を明らかにする。

成果の内容・特徴

  • 2018年産の「あかね」、「きたろう」、「ジョナゴールド」および「ふじ」について、果皮を透過した650~740 nmの波長域の散乱光の反射率を携行型分光計を用いて非破壊で測定し、この部位のクロロフィル含量の実測値と透過率から算出したクロロフィル含量の関係について、部分的最小二乗回帰分析によりモデルを推定すると、各品種のモデルによって高精度(r2=0.940~0.982)にクロロフィル含量を推定できる(図1)。
  • 品種及び年次を越えた推定モデルの精度を検証するため、2018年産「きたろう」の推定モデルを用いて2019年産の上述の4品種および「トキ」を加えたクロロフィル含量を推定すると、高精度(r2=0.919~0.981)で推定でき、推定モデルの汎用性が高い(図2)。
  • 携帯型分光計により得られた果皮のクロロフィル含量について、カラーチャートによる地色(図3)やデンプン指数(図4)との相関関係がみられることから、クロロフィル含量により熟度の判定ができる可能性がある。

成果の活用面・留意点

  • 携行型分光計は商品名「果実非破壊測定器 おいし果」(クロロフィル含量測定用波長フィルター付モデル)が千代田電子工業(株)より40万円程度で購入可能であるが、ニホンナシにのみ対応しており、リンゴに関しては現時点で未対応である。
  • リンゴ品種によって収穫適期のデンプン指数が異なることから、品種毎に収穫適期のデンプン指数に対応したクロロフィル含量を決定する必要がある。
  • ニホンナシにおいて、今回使用した携帯型分光計により野外において樹上での測定が可能であることから、リンゴにおいても同様の測定が可能であると考えられる。

具体的データ

図1 リンゴ4品種(2018年産)の果皮のクロロフィル含量の実測値と計算値との関係,図2 2018年産「きたろう」の推定モデルを用いた場合の2019年産の5品種における実測値と計算値との関係,図3 リンゴ5品種(2019年産)のクロロフィル含量と地色との関係,図4 リンゴ5品種(2018および2019年産)のクロロフィル含量とデンプン指数との関係

その他

  • 予算区分:交付金、その他外部資金(資金提供型共同研究)
  • 研究期間:2018~2019年度
  • 研究担当者:阪本大輔、原田昌幸(千代田電子工業(株))、山根崇嘉、守谷友紀、花田俊男、馬場隆士、岩波 宏
  • 発表論文等:
    • 阪本ら(2021)園芸学研究、20(1): 73-78
    • 山根ら「クロロフィル含有量の測定方法及び果実の熟度判定方法」特願2019-128000(2019年7月10日)