NAC水和剤によるリンゴの摘果に影響を及ぼす要因と摘果効果の推定

要約

NAC水和剤処理によるリンゴの落果程度(摘果効果)は、処理した果そうの着果数と果そう葉数、処理後3日間の日最高気温の平均値および満開後3週間から1週間の日射量の影響を受け、これらを変数とする重回帰式により、処理による摘果効果を推定できる。

  • キーワード:生理落果、摘果剤、回帰モデル、気象、省力
  • 担当:果樹茶業研究部門・リンゴ研究領域・リンゴ栽培生理ユニット
  • 代表連絡先:
  • 分類:研究成果情報

背景・ねらい

リンゴにはNAC水和剤が摘果剤として農薬登録されているが、その効果が不安定で予測も難しいことから、利用は限られている。効果が不安定な理由は、薬剤に対するリンゴ樹の反応が、処理時の気象条件や樹体の栄養状態によって異なるためである。これら摘果効果に影響を及ぼす要因を明らかにし、リンゴ樹の状態や処理時期の気象条件から処理の効果が推定できれば、処理の必要性や処理時期の判断の助けとなり、摘果剤の効率的な利用による摘果作業の省力化が期待できる。
そこで本研究では、処理前後の気象要因と樹体の栄養状態を表す指標の中から幼果の落果程度と相関のある要因を探索し、それらを使って摘果効果を推定するモデルを開発する。

成果の内容・特徴

  • NAC水和剤の摘果効果は、リンゴ樹のもつ早期落果性(生理落果)を助長する形で現れる。生理落果する幼果が肥大停止する時期より前に処理をしても、肥大停止する幼果が現れる時期は、無処理樹の幼果が肥大停止する時期(5/25~6/5)と重なる(図1)。早くに処理をした方で落果が多くなるわけではなく、また、肥大停止時期後に処理をしても、落果は増えない。
  • NAC水和剤処理樹の落果率は、果そう内着果数が多いほど、また、処理後3日間の日最高気温の平均値が高いほど高く、果そう葉数が多いほど低い(図2)。また、満開後3~4週の平均日射量が少ないと高くなる(図2)。
  • 上記4つの要因を変数とした下記の重回帰モデルで、品種によって切片の値を変えることで、いずれの品種でも落果率を概ね推定できる(図3)。
    落果率(落果数/結実数)=品種特性値 +0.34・摘果剤処理時果そう内着果数 -0.24・果そう葉数(指数:1~6)+0.03・処理後3日間の日最高気温の平均値(°C ) -0.16・満開3週間後から1週間の平均日射量(MJ・m-2)
    (品種特性値 ふじ:2.03、秋映:1.47、きたろう:2.14)
  • NAC水和剤の処理時期である満開1~4週の間で最高気温は変動するが、果そう内着果数と果そう葉数が同じであれば、処理日による落果率の違いは小さい(図4)。一方、年次によって満開後3~4週の平均日射量は大きく異なるため、落果率の年次間差は大きくなる。

成果の活用面・留意点

  • 岩手県盛岡市でわい性台樹(台木:JM1、JM7、M.26)を用いて試験した結果である。
  • 処理の摘果効果が品種によって異なるのは、品種によって生理落果の起こりやすさが異なるためである。生理落果しにくい品種は、NAC水和剤の摘果効果も低い。

具体的データ

図1 NAC水和剤の処理時期と果実の肥大停止時期との関係(´ふじ´) A:無処理樹の肥大停止果率の推移 B~E:処理樹の肥大停止果率の推移,図2 NAC水和剤処理による落果率と、処理時の果そう内着果数(A)、果そう葉数指数(B)、処理後3日間の日最高気温の平均(C)および満開後3~4週の平均日射量(D)との関係,図3 リンゴ3品種における、NAC水和剤の処理時期が異なる供試樹ごとの落果率の実測値とモデルから推定した値との関係,図4 気象条件の異なる4か年の、モデルから推定した´ふじ´のNAC水和剤満開1~4週間後処理における落果率の推移

その他

  • 予算区分:交付金、委託プロ(業務・加工用)
  • 研究期間:2016~2020年度
  • 研究担当者:岩波宏、守谷友紀、花田俊男、阪本大輔、馬場隆士
  • 発表論文等:岩波ら (2021) 園芸学研究 20(1): 79-85