網羅的遺伝子診断による、ブドウ台木3品種のウイルス・ウイロイド非検出個体の獲得

要約

主要なブドウ台木3品種(「テレキ5BB」、「グロワール」、「101-14」)について、熱処理と茎頂培養によるウイルスフリー化処理を行い、従来法よりも網羅的診断が可能な次世代シーケンス解析を併用した診断を行うことで、既知のウイルス・ウイロイドが非検出の数個体を得ている。

  • キーワード:ブドウ台木、ウイルスフリー化、ウイルス、RT-PCR、次世代シーケンス解析
  • 担当:果樹茶業研究部門・ブドウ・カキ研究領域・ブドウ・カキ病害虫ユニット
  • 代表連絡先:
  • 分類:研究成果情報

背景・ねらい

ブドウにおいてウイルス病は重要であり, ウイルス感染の無い健全な母樹より苗木を作ることがその対策として最も重要である。これまで、逆転写ポリメラーゼ連鎖反応(RT-PCR)などの手法を用いて、ウイルス感染の認められない個体を母樹としていたが、RT-PCRでは標的以外のウイルスを検出できないという問題があった。近年、次世代シーケンス(NGS)解析が開発され、従来法よりも網羅的なウイルス診断が可能となった。本解析を利用した試験を通じて、農研機構で保存する台木母樹から、これまで検出されなかったウイルスが発見される事例が認められている。一般的にブドウの台木は挿し木で繁殖するため、台木母樹がウイルスに感染していると、その挿し木苗から接ぎ木を通じて穂木品種にも感染する。そこで、我が国のブドウ苗木生産に役立てることを目的とし、主要なブドウ台木品種について、母樹のウイルスフリー化処理を行い、RT-PCRによる1次スクリーニングとNGS解析による2次スクリーニングを実施して、ウイルス・ウイロイド非検出の個体を獲得する。

成果の内容・特徴

  • 農研機構で保存している台木品種「テレキ5BB」(別称:「コーベル5BB」)(JP番号: 116434), 「リパリア・グロワール・ド・モンペリエ」(以下、「グロワール」)(同: 116542), 「101-14」(同: 116521)について、熱処理と茎頂培養によるウイルスフリー化処理を行い、それぞれ20個体程度の順化個体を得ている。順化個体の獲得率は32~57%である。(表1)。
  • 良好な生育を示す順化個体16~18個体について、「テレキ5BB」や「グロワール」母樹より検出される2種ウイルス(ブドウファバウイルス:GFabV、ブドウジェミニウイルスA:GGVA)と2種ウイロイド(ホップ矮化ウイロイド:HpSVd、ブドウ黄色斑点ウイロイド1:GYSVd-1)を標的としてRT-PCRを行った結果、3~9個体がこれらウイルス・ウイロイド非検出である(表1)。そのうち、テレキ5BBの3個体中1個体は維持管理中に枯死したため、2次スクリーニングから除外している。
  • 3品種のウイルスフリー化処理後の個体について、2カ年にわたりNGS解析を行い、ウイルス・ウイロイド非検出の「テレキ5BB」2個体、「グロワール」と「101-14」各6個体を獲得している(表2)。2019年は、1次スクリーニングでウイルス非検出(ウイロイド陽性個体を含む)の各品種6個体ずつを混合して解析し、「テレキ5BB」からウイロイドが検出されたものの、「グロワール」と「101-14」は既知の植物ウイルス・ウイロイドが非検出であることを確認している。2020年は各品種より、RT-PCRでウイルス・ウイロイド非検出の2個体ずつを混合して解析し、既知の植物ウイルス・ウイロイドが全て非検出であることを再確認している(表2)。

成果の活用面・留意点

  • 順化個体や陰性個体の獲得率は品種間で差が見られるが(表1)、条件を揃えた試験ではないため、品種の違いによる獲得率への影響は評価していない。
  • 全ての診断法に共通して言えることだが、NGS解析を用いても検出限界はあり、検定漏れが生じる可能性は否定できない。一方で、ブドウに感染するウイルスは、現時点、全世界で80種類以上が確認されており、ウイルスフリー化の工程にNGS解析を活用することは、ウイルスフリー化後の苗木の信頼性を高めるためにも有用である。
  • ウイルス・ウイロイド非検出の「テレキ5BB」と「グロワール」および「101-14」の各個体(表2)は、台木母樹として隔離保存する。

具体的データ

表1.培養茎頂から発根・順化に至った個体数と陰性個体数およびその割合 (%),表2.各台木品種の無毒化6個体におけるRT-PCRとNGS解析結果

その他

  • 予算区分:交付金
  • 研究期間:2016~2020年度
  • 研究担当者:伊藤隆男、中島育子、千秋祐也、土師岳、佐藤明彦(現 近畿大学)
  • 発表論文等:千秋ら (2021) 農研機構研究報告、印刷中