カキから検出されるウイルス・ウイロイドと、カキ品種「麗玉」の生育不良

要約

カキの新品種「麗玉」は、一部の中間台木に高接ぎすると、接ぎ木不親和や樹勢低下を生じることがある。その原因の一つとして、特定のウイルスの関与が推察され、非感染の台木に接ぎ木することで被害を回避できる。

  • キーワード:ウイルス、ウイロイド、カキ、「麗玉」、生育不良
  • 担当:果樹茶業研究部門・ブドウ・カキ研究領域・ブドウ・カキ病害虫ユニット
  • 代表連絡先:
  • 分類:研究成果情報

背景・ねらい

農研機構が育成した甘ガキの新品種「麗玉」は、「甘百目」や「大養」等の品種に接ぎ木すると接ぎ木不親和症状が認められ、他の一部の品種に高接ぎした場合にも生育不良が生じ、果実の小玉化や樹勢の低下が認められる。そのため、高接ぎする場合は、このような症状が認められない「富有」や「松本早生富有」および「太秋」を中間台木に用いることが望ましいとされている。しかし、中間台木が異なるとなぜ生育が影響を受けるのか、その理由を明確に説明する科学的な根拠に乏しい。これまで、カキから4種のウイルス(カキAウイルス:PeVA、カキBウイルス:PeVB、カキ潜在ウイルス:PeLV、カキ潜伏ウイルス:PeCV)と4種のウイロイド(リンゴゆず果ウイロイド:AFCVd、カンキツウイロイドVI:CVd-VI、カキ潜在ウイロイド:PLVd、カキウイロイド2:PVd2)が見出されている。ウイルス性病原体が、「麗玉」の接ぎ木不親和や生育不良の原因である可能性を検討する必要があると考え、次世代シーケンス(NGS)解析によりウイルス・ウイロイドを網羅的に検出して、関連性を明らかにする。

成果の内容・特徴

  • 「麗玉」の母樹は「富有」を中間台木とした高接ぎ樹として保存されており、樹勢は良好である(図1a)。「麗玉」の高接ぎ樹の中には枯死するものもあり(図1b)、樹皮下にはステムピッティング(木質部のくぼみ)の症状も観察される。
  • 生育不良を示す2樹に対してNGS解析を行い、両樹からPeVA、AFCVd、CVd-VI、PLVdおよびカキアンペロウイルス(PAmpV)とカキポレロウイルス(PPolV)が、1樹のみからカキワイカウイルス(PWaiV)とPeCVがそれぞれ検出される。
  • 系統適応性試験で各県に供試された樹を含む「麗玉」の高接ぎ樹34樹について調査したところ、PAmpVが検出される24樹のうちの20樹は生育不良を、残りの4樹は良好な生育を示し、PAmpVが検出されない10樹は全て良好な生育を示す(表1)。「富有」が中間台であっても生育不良を示す個体が3樹あり、それらからもPAmpVが検出される。この調査の結果から、生育の良否はPAmpVの感染に最も深い関連性があると推察される。
  • 「麗玉」の母樹より採取した穂木を実生に接ぎ木した苗木に、PAmpVとPPolVおよびPLVdが混合感染した穂木を接ぎ木すると、有意に伸長が抑制される(図2)。
  • PAmpVはクロステロウイルス科アンペロウイルス属、PPolVはルテオウイルス科ポレロウイルス属、PWaiVはセコウイルス科ワイカウイルス属の新種であり、カキでの感染が知られるウイルスは計7種類、ウイロイドは4種類となる。

成果の活用面・留意点

  • 「麗玉」の母樹からは、PeVA、AFCVdおよびCVd-VIが検出されるが(表1)、これらは品種を問わずカキから一般的に検出される。「麗玉」母樹の樹勢は良好であり、これらの感染による生育への支障は無いと考えている。
  • カキに感染するウイルス・ウイロイドは、逆転写ポリメラーゼ連鎖反応(RT-PCR)による遺伝子診断が可能であり、感染の有無を指標として生育不良を起こしうる台木の使用を回避できる。カキで種子伝染するウイルス・ウイロイドは知られていないことから、カキの実生苗(共台)は感染リスクが低く、「麗玉」の台木として推奨できる。
  • 現在市販されている「麗玉」の苗木は、母樹から穂木を取って実生台木に接ぎ木したものであり、生育不良との関連が疑われるウイルス・ウイロイドの感染は認められていない。
  • 現時点で、PAmpVが生育不良の原因として最も疑わしいが(表1)、PPolVおよびPLVdの関与も否定できない(図2)。これまでにカキにおいて、媒介者が特定されているウイルスはない。一方、他の植物でウイロイドは、剪定鋏などの器具を介して伝染することが知られるため、栽培管理上の注意が必要である。

具体的データ

図1.(a)「麗玉」の高接ぎ母樹と、(b) 高接ぎ1年後に枯死した「麗玉」(「麗玉」部分は囲んで表示),表1.「麗玉」の高接ぎ樹について、RT-PCRにより調査したウイルス・ウイロイド保毒状況,図2.「麗玉」の母樹より穂木を取って実生に接ぎ木した苗木(左3本)と、PAmpVとPPolVおよびPLVdを混合感染させた苗木(右3本)

その他

  • 予算区分:交付金
  • 研究期間:2014~2020年度
  • 研究担当者:伊藤隆男、佐藤明彦(現 近畿大学)
  • 発表論文等:Ito and Sato (2020) Eur. J. Plant Pathol. 158:163-175
    doi: 10.1007/s10658-020-02063-0