醸造用および生食用ブドウの収穫期における酸含量は気温から推定できる

要約

醸造用および生食用ブドウの収穫前40~50日間の平均気温が高いほど、収穫期の酸含量は低下する。1次(醸造用)または2次(生食用)回帰式により、気温の推定値から収穫期の酸含量が推定でき、約0.05g/100mlの誤差で、適地判定等に供することができる。

  • キーワード:温暖化、気候変動、適地、ワインブドウ
  • 担当:果樹茶業研究部門・生産・流通研究領域・園地環境ユニット
  • 代表連絡先:
  • 分類:研究成果情報

背景・ねらい

温暖化の進行により果樹の適地が変動する可能性が指摘されている。ブドウの酸含量は寒冷地で高く、栽培北限を決める主要な要素となっているものの、気温と酸含量の関係は定量化されていない。栽培適地の推定に資するため、醸造用ブドウは7県(8試験圃場)の2008-2016年、生食用ブドウは37都道府県(40試験圃場)の1990-2016年における酸含量を分析し、酸含量と気温の関係を示すモデルを構築する。また、醸造用ブドウでは酸含量が低下しすぎないように、完熟前に早期収穫することがある。この場合、実際に酸含量を測定し、適正酸含量になる時期を推定するが、その際に参考となる、減酸速度と気温の関係を明らかにする。

成果の内容・特徴

  • 醸造用ブドウ「シャルドネ」(図1A)は開花盛後60~99日、「モンドブリエ」同65~109日、「コリーヌヴェルト」同35~84日の平均気温と収穫期の酸含量(滴定酸度)との間に有意な負の相関がある。
  • 生食用ブドウ「巨峰」(図1B)の開花盛後50~92日、「ピオーネ」 同46~91日、「涼香」同52~93日における平均気温と収穫期の酸含量の関係は、高温ほど酸が低いものの、醸造用と異なり26°C以上では酸含量はほとんど低下しない。
  • デ-タを地点別に平均し、得られた1次(醸造用)または2次(生食用)回帰式の推定誤差(RMSE)は0.05g/100ml(表1)であり、この式により、気温の推定値から収穫期の酸含量が推定できる。
  • 醸造用ブドウの成熟期(ベレゾーン以降)の減酸速度と気温には一定の関係が認められる(図2)。

成果の活用面・留意点

  • 新規栽植前に予定地の過去の気温から、酸含量を推定することで適地判定に利用できる。
  • 産地において将来の気温から、酸含量の変化傾向を推定する場合に利用できる。
  • 醸造用ブドウを早期収穫する場合に、酸含量の実測値と気温の予報値から適正酸含量になる時期を推定する際に活用できる。

具体的データ

図1 ブドウ収穫期の酸含量と気温の関係.横軸は「シャルドネ」(A)が開花盛後60~99日、「巨峰」は50~92日の平均気温。,表1  ブドウ収穫期の酸含量と気温の関係式,図2 醸造用ブドウの1日あたりの酸含量の変化と気温の関係。

その他

  • 予算区分:交付金、競争的資金(イノベ創出強化)
  • 研究期間:2011~2020年度
  • 研究担当者:杉浦俊彦、紺野洋平
  • 発表論文等:Sugiura T. et al. (2020) Hort. J. 89:208-215