豚舎汚水の処理水から硝酸性窒素を効果的に除去できる硫黄脱窒処理技術

要約

硫黄脱窒システムによる高次処理により、豚舎汚水浄化処理実施設からの硝酸性窒素約250mg/Lの排水を平均100mg/L以下の処理水に低減できる。約8ヶ月間の連続した農家施設検証で、平均気温14度の環境条件で硝酸性窒素濃度除去率は約65%である。

  • キーワード:硝酸性窒素等、硫黄脱窒、水質汚濁、窒素浄化、排水処理
  • 担当:畜産研究部門・畜産環境研究領域・水環境ユニット
  • 代表連絡先:電話029-838-8673
  • 分類:普及成果情報

背景・ねらい

養豚排水は硝酸性窒素等について水質汚濁防止法による暫定排水基準の適用を受けているが、一般基準(100mg/L)の早期達成に向けた努力が社会的に求められている(次期の見直しは平成31年6月)。畜産における実用的かつ効果的な汚水処理技術の開発推進が要請されている(「家畜排せつ物の利用の促進を図るための基本方針」平成27年3月農林水産省、「養豚農業振興法」平成26年7月)。養豚排水浄化新技術として2014年度に開発された技術(研究成果情報「粉末硫黄を利用した畜舎排水中硝酸性窒素低減システム」http://www.naro.affrc.go.jp/project/results/laboratory/nilgs/2014/nilgs14_s20.html)を現場実証し、農家導入可能な実用技術提案を目指す。

成果の内容・特徴

  • 3年間の共同研究(千葉県、畜産環境整備機構)の検証によれば、実排水試験においても硫黄脱窒処理システムの窒素除去効果は高い。図2のリアクターに硫黄脱窒用資材を500kg充填して豚舎汚水浄化施設の処理水を連続通水すると、資材容積あたり滞留時間0.7~1.5日、水温5.5~23.9°Cの条件下で硝酸性窒素を効果的に低減できる。
  • 原水硝酸性窒素の平均244.6mg/Lに対し、処理水硝酸性窒素は平均88.5mg/Lで平均除去率は約65%である。
  • 粉末硫黄に炭酸カルシウムを混合、さらに界面活性剤を配合して親水化処理し作製した硫黄脱窒用新資材は、窒素負荷量0.17~0.40kg/トン-資材/日の負荷条件で高い除去効果を低温条件下でも発揮し、脱窒活性の進行に伴い増加する硫酸イオン(SO42--S)による処理水のpH低下を回避、処理水は水質汚濁防止法に準拠している(図1下段)。
  • リアクターの原水投入区画は、天端を初期水位より1m程度高くすることで、資材が圧密しても通水を維持できる(図2)。
  • 硫黄脱窒処理に関する施設設計(施設規模、通水速度、温度管理等)を導入施設毎個別に算出するため、検証用リアクターを試作した(図3)。浄化施設の温度条件、環境規制や目標水質に適合した硫黄脱窒処理システムの設計が可能である。

普及のための参考情報

  • 普及対象:養豚経営の汚水浄化処理施設
  • 普及予定地域・普及予定面積・普及台数等:全国の汚水浄化処理施設を持つ養豚経営
  • 所要経費:母豚100頭規模の経営において200mg/Lの硝酸性窒素等を100mg/Lに低減させる場合を想定すると、施設の設置費は95~145万円(管材、電工費、施工費を含む)、ランニングコストは、資材費と電力費で714~1674円/日と試算される。
  • 長期間稼動でカルシウムを含有する硫黄資材の生成物(硫酸カルシウム)が固化する場合がある。定期的な攪拌や振動による回避処置を想定し、上記設置費には14万円のバイブレータが含まれている。
  • その他:千葉県担い手支援課HPの"フィールドノート"に本技術に関する詳細情報が掲載される(http://www.pref.chiba.lg.jp/ninaite/network/field-rireki.html)。また「さわやか畜産総合展開事業」(千葉県)の補助対象技術である。硫黄脱窒資材は加藤産商(株)より入手可能である。

具体的データ

図1 硫黄脱窒実証試験の原水および処理水のNO3---NとpH、リアクター水温の推移;図2 硫黄脱窒リアクターの概要;図3 検証用リアクター;


その他

  • 予算区分:交付金
  • 研究期間:2015~2017年度
  • 研究担当者:長田隆、長谷川輝明(千葉県畜総セ)、田中康男(畜環機構)
  • 発表論文等:
  • 1)長谷川ら(2017)日本畜産環境学会誌、17(1):26-35
    2)長谷川ら(2013)日本畜産学会報、84(4):459-465
    3)田中、長谷川「簡易加温システムを備えたリアクターによる養豚排水の硫黄脱窒技術」特開2017-100088(2017年6月8日)