粉末硫黄を利用した畜舎排水中硝酸性窒素低減システム

要約

通常の生物処理を行った後の養豚排水を粉末硫黄充填槽に通水し、硝酸性窒素を簡易に低減する手法である。通水開始後約1か月で脱窒活性が上限に達し、それ以降の除去率は、窒素負荷0.4kg/(トン硫黄・日)で約80%、0.8 kg/(トン硫黄・日)で約50%である。

  • キーワード:養豚、汚水浄化、硫黄、硝酸性窒素、脱窒
  • 担当:バイオマス利用・畜産バイオマス
  • 代表連絡先:電話 029-838-8611
  • 研究所名:畜産草地研究所・畜産環境研究領域
  • 分類:研究成果情報

背景・ねらい

養豚農家では汚水浄化処理の必要な場合が多く、活性汚泥方式が標準的に利用されているが、活性汚泥法による硝酸性窒素除去には一定の限界がある。一方、硝酸性窒素の排水基準値は現状では暫定値の700mg/Lであるものの、今後一律基準値の100mg/Lまで引下げられる可能性がある。よって、簡易で安定した硝酸性窒素除去法が求められる。市販の粉末硫黄資材を用い、簡易で安定した脱窒法を開発する。

成果の内容・特徴

  • ブルーベリー栽培などで使用される土壌pH調整用粉末硫黄が入手し易い。ただし、そのままでは疎水性のため水処理に使用不可能。家庭用中性洗剤で処理すると親水性に変化し、脱窒処理に利用可能となる。
  • 槽内が仕切り板により分画された上下迂流式小型処理槽(バッフルドリアクター)(図1)に粉末硫黄を投入し、排水を通水すると、約1か月で脱窒能が発現する(図2左)。脱窒能力は、窒素負荷0.4kg/(トン硫黄・日)で約80%、0.8 kg/(トン硫黄・日)で約50%(図2右)である。
  • 土木用ポリエチレン製ノッチタンク(図3)は、重量36kgと軽量で設置が容易な一方0.5m3の容積を有し複数のタンクを連結すれば中小規模養豚場の脱窒槽に利用可能。親水化処理は100L程度の水を満たしたノッチタンクに硫黄粉末を投入し、中性洗剤を100~200mL添加し手持式攪拌機で混合する(図4)。
  • 処理水が酸性化する場合は飽和重曹溶液を添加するのが効果的である。
  • 重曹は過剰添加になった場合でもpHが極端に上昇しないので安全である。

成果の活用面・留意点

  • 硝酸性窒素規制がさらに強化された場合に、脱窒プロセスの付加を迫られる生産者が簡易に利用できる。ただし、低水温では性能が低下するので、冬期には負荷を下げる必要がある。
  • 硫黄粉末の親水化効果は洗剤の種類により大きく異なるので、少量の粉末硫黄で効果確認を行った後に用いることが重要である。
  • 硫黄は、消防法において危険物(可燃性固体)に指定されているため、運搬は消防法に則って行い、納品後は直ちに処理槽の水中に投入すること。また取扱いの際には、ゴーグルとゴム手袋を着用し、目に入った場合や皮膚に付着した場合は速やかに水で洗い流すこと。

具体的データ

図1~4

その他

  • 中課題名:畜産廃棄系バイオマスの処理・利用技術と再生可能エネルギー活用技術の開発
  • 中課題整理番号:220d0
  • 予算区分:交付金、その他外部資金(その他)
  • 研究期間:2011~2015年度
  • 研究担当者:田中康男、長谷川輝明(千葉県畜産総合研究センター)
  • 発表論文等:
    1) 田中ら(2013)日畜会報、84(3):383-388
    2) 長谷川ら(2014)日畜会報、84(4):459-465
    3) 長谷川、田中(2015)日畜会報、86(1):45-51