全国の2次メッシュ気象予測データに基づくトウモロコシ二期作適地の変化予測

要約

トウモロコシの二期作栽培が可能となる条件を年間の10°C基準有効積算温度2,300°C以上とすると、全国の2次メッシュ(約10km×10km)における二期作適地の割合は現在21%であるが、2090年には40~48%に増加することが予想される。

  • キーワード:トウモロコシ、二期作栽培、有効積算温度、気候変動、温暖化
  • 担当:畜産研究部門・飼料作物研究領域・栽培技術ユニット
  • 代表連絡先:電話0287-37-7224
  • 分類:研究成果情報

背景・ねらい

トウモロコシの二期作栽培は高栄養のサイレージ用トウモロコシを1年に2回栽培する作付体系であり、水田転換畑における単位面積当たりの栄養収量を向上させる作付体系として有効である。既往成果(2017年度普及成果情報)では、近年の温暖化の影響により関東地域において二期作の栽培適地が拡大しており、その傾向は今後も続くことを3次メッシュ(約1km×1km)気象データを用いて予測した。しかし、こうした二期作適地の拡大は関東以外の地域においても起こるものと考えられる。そこで本研究では3次メッシュデータより精度が劣るものの、全国の2次メッシュ(約10km×10km)の気象予測データを用いて、今後の全国の二期作適地の拡大予測を行う。

成果の内容・特徴

  • トウモロコシ二期作適地の変化予測に用いた気象予測データはIPCC第5次報告書中の温室効果ガスの排出シナリオ及び気候モデルのうち、排出シナリオをRCP4.5(中位安定化シナリオ)、気候モデルをMRI-CGCM3及びMIROC5とする2通りの組み合わせのもとで得られた日平均気温の2次メッシュ予測データである。各年の日平均気温のデータより年平均気温及び年間合計の10°C基準有効積算を算出し、その2031~2050年及び2081~2100年の20年間平均値をそれぞれ2040年及び2090年の予測値とし、また、現在の値はMRI-CGCM3モデル中の1981年~2000年の平均値とする。
  • MRI-CGCM3による予測では、全国の年平均気温(全2次メッシュの平均)は現在の11.3°Cから2090年には13.2°Cとなることが予測される(表1)。MIROC5による予測値はMRI-CGCM3よりも0.8°C高い。
  • 二期作栽培の適地判定指標を年間の10°C基準有効積算温度2,300°C以上(トウモロコシ全植物体乾物率25%以上が期待できる条件)とすると、全国の二期作適地の2次メッシュ数割合は、現在21%であるが、2040年に33~44%、2090年に40~48%に増加し、西日本や関東東海地域の低標高地で適地が拡大することが予測される(図1)。
  • 現在の二期作適地である神奈川県海老名市を例として、慣行栽培(二毛作における夏作トウモロコシ)の作期(5月~9月)と二期作の1作目(4月~7月)及び2作目(8月~11月)の平均気温を比較すると、現在及び2040年、2090年とも慣行栽培の作期に比較して二期作の1作目及び2作目の平均気温は低く、二期作は温暖化する気象条件のもとでも低い温度の作期を設定できる作付体系であると考えられる(図2)。

成果の活用面・留意点

  • 二期作の適地判定指標は、現在の二期作栽培の北限である栃木県南部において1作目に相対熟度(RM)100前後のトウモロコシ極早生品種、2作目にRM120~130前後の中生~晩生品種を供試した試験結果に基づく。
  • 慣行二毛作(夏作トウモロコシ+冬作飼料作物)に比較した二期作による増収効果や経済性については、畜産研究部門技術リポート18号を参照されたい。

具体的データ

表1 排出シナリオRCP4.5と2つの気候モデル(MRI-CGCM3及びMIROC5)の組み合わせのもとで予測される2040年及び2090年の全国の平均気温及び°C基準有効積算温度,図1 排出シナリオをRCP4.5、気候モデルをMRI-CGCM3及びMIROC5とする気象予測データを用いたトウモロコシ二期作の栽培適地の変化予測(北海道は全て二期作不適地と判定されたため表示していない。),図2 現在の二期作適地(神奈川県海老名市)における慣行栽培の作期(5月~9月)及び二期作の1作目(4月~7月)・2作目(8月~11月)の平均気温の変化予測

その他

  • 予算区分:交付金、委託プロ(温暖化適応・異常気象対応)
  • 研究期間:2015~2018年度
  • 研究担当者:菅野勉、森田聡一郎、佐々木寛幸、赤松佑紀、西村和志、加藤直樹、西森基貴
  • 発表論文等:Kanno T. et al. (2019) Bull. NARO, Livest. & Grassl. Sci. 19:1-9